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2019.08.06

股関節便り 第34号

  • ご挨拶(佐賀大学医学部整形外科 教授 馬渡 正明)
  • サプリメントの話(佐賀大学医学部整形外科 准教授 園畑 素樹)
  • 人工股関節全置換術後の合併症(人工関節学講座 准教授 河野 俊介)
  • 人工股関節術前後の歩行速度の経年的変化(助教 江頭 秀一)
  • 新任の挨拶
  • 2018年 股関節だより・脊椎だより送付状況

内容

教授就任10周年を迎えて

佐賀大学医学部整形外科 教授 馬渡 正明

股関節便りを楽しみにしてくださっている皆さん、今年もまたその時期になりました。私が教授に就任したのが2010年3月で、今年の3月でちょうど10年目を迎えることになりました。股関節便りでいいますと、第25号からで今回が34号で10回の発行になります。この間いろいろなことがありましたが、なんとか毎年発行することができ股関節に関する情報を発信することができたのは、大変喜ばしいと思っています。この小冊子を手にして外来受診される患者さんも多く、それなりの役目は果たしてきたのだろうと自負しています。この3月には10周年とたまたま私の還暦が重なり、同門の皆様方にお祝いをしてもらい感謝したところでした。退官まで5年となり、ラストスパートをかけていきたいと思っています。大学の外来はおかげさまで多くの患者さんが来院されています。直近の新患1300名のご住所を調査したところ、図1のように、地元佐賀が36%と最も多いのですが、九州各県から半数以上の59%の方が受診されていることが分かり、5%の方が、外国を含め九州以外からお見えになっていました(表1)。このデータをみても、全国から佐賀大学にきてもらっていることが改めて認識できました。その結果は手術までの待ち時間が相変わらず7か月になっていますことを心苦しく思っています。しかし私以外の股関節診療班のメンバー(園畑准教授/河野准教授/江頭助教)も十分執刀ができていますので、急ぐ方は対処できるような体制を作っていますので、ご安心ください。今年も少ないながら、4名の研修医の先生方が整形外科専門医を目指して、当教室に入ってきました。4年間をかけてしっかり教育していきたいと思います。この号にあいさつ文を書いていますので、ご一読いただければと思います。

さらには神戸大学での大学院を卒業した女性整形外科専門医が、佐賀大学へ入局してくれました。整形外科は女性医師が少なく、日本全体でみても5%しかいません。残りの95%が男性医師ということになりますが、女性医師が活躍できる分野も実際には多いので、新人を含め今年2名の女性医師が当教室に入ってくれたことは、大きなパワーとなることだと思います。佐賀大学医学部はそもそも女子学生の比率が高く、約半数を占めていますので、もっと多くの女性医師が整形外科に興味が持てるように工夫していきたいと思っています。研究のほうも抗菌インプラント関係の実験は続いています。すでに2016年4月より全国で私たちが開発した抗菌人工股関節は使えるようになっていますが、3年を経過し全国200施設で4500例以上に用いられています。その結果数例の表層感染はあるものの、人工関節に達するような深部感染症は予防できており、安全に使えることが明らかとなっています。さらに今年度中には脊椎用のインプラントが使用できる見込みとなっていて、抗菌インプラントのトレンドがくればいいなと思っています。そのほかの研究でも成果を上げてきています。そのひとつが骨粗しょう症に関する基礎的な研究です。

骨粗しょう症は高齢化に伴い避けては通れない問題で、軽微なケガでどこの部位でも骨折してしまい、きちんとした治療が行われなければ寝たきりになりうる厄介な病気です。インプラント自体は随分丈夫になり、それ自体が破損することはまれになりましたが、そのインプラントを支える骨が弱れば、支えきれずに折れるということになります。最近の再手術ではこのインプラント周囲骨折とよばれる骨折が増えており、問題になっています。インプラント手術を受ける人は増え続け、90歳を超えた方にも手術することが普通になっていますが、支える骨が弱ければ、手術の成功はおぼつかないことになります。この骨粗しょう症を解決することはとても大事なことで、有効な薬物治療ができれば画期的なことになります。私たちの実験では、動物を使った実験レベルながら、新しい創薬に繋がる結果が得られつつあり、今後の進展が期待されています。もちろん骨粗しょう症の治療の柱は適度な運動とバランスの取れた食事にあることは論を待ちませんが…今回の股関節便り、脊椎便りもいろいろな話題を提供しています。それらがすこしでも皆様のお役に立つのであれば幸いです。


サプリメントの話

佐賀大学医学部整形外科 准教授 園畑 素樹

皆さまこんにちは。今回は、サプリメントの話をさせていただきます。日本人の平均寿命は延び続け、男性81歳、女性87歳となっています。また、2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳より長く生きると推計されており「人生100年時代」という言葉まで世間を賑わせています。平均寿命が延びることは良いことですが、それにともなっていくつかの問題も出てきています。1つは超高齢化社会の問題であり、もう1つは健康寿命と平均寿命の開きです。健康寿命は男女ともに平均寿命より約10年短いというデータがあります。つまり、人生の最後の10年は何かしらの支援・介助が必要であるという事です。誰しも、人生の最後の瞬間まで自分で歩き、身の回りの事は自分でしたいと思われるのではないでしょうか。

私もそうです。健康に対する意識が高まり、多くの方が運動を心がけ、健康診断を受け、体の不調があれば早めに医療機関を受診するようになってきています。もちろん食事についても気を使っておられる方が多いと思います。食事で十分摂れない栄養素や、もう少し多く摂りたいと思う栄養素については、サプリメントを服用される方もいます。私たち整形外科医が患者さんからよく聞かれる質問に、「xxサメの軟骨のサプリは効きますか?」「世田谷xxのxxは効きますか?」「xxを飲むと軟骨が増えますか?」などなどがあります。関節の軟骨がすり減っていますと言われたことのある患者さんにとっては切実な問題だと思います。どうにかして軟骨が元に戻らないかと考えますよね。国内外の多くの学会で、各種の手術、薬剤、そしてサプリメントについての評価が行われています。その内容をご紹介します。日本整形外科学会と日本股関節学会のガイドラインでは、『各種サプリメント(コンドロイチン、グルコサミン、コラーゲン、ヒアルロン酸など)の治療効果については、一定の見解は得られていない』(原文通り)とされています。ただし、関節の中にヒアルロン酸を直接注射する治療は推奨されています。また、日本整形外科学会のホームページには、一般の方向けに「サプリメント」について解説したものがあります。https://www.joa.or.jp/public/about/supplement.html結論を先に話しますと、日本整形外科学会としては「これは無効であるから飲むな」とは公式には言えない。と書かれています。実際、サプリメントが有効であるという論文もあれば、有効性は無いという論文もあります。サプリメントが、科学的に有効性が証明されていれば保険適応となる(病院で処方できる薬になる)はずですが、保険適応にはなっていないとも書かれています。しかし、絶対に効果が無いとは断言できない。ということのようです。たしかに、絶対に効果が無いことを証明することはとても難しい問題です。無いことの証明というのは、「悪魔の証明」と言われているほどです。たとえば、ネス湖のネッシーです。1人でもネッシーの目撃証言があれば「可能性がある!」と言えますが、絶対に居ないという事を証明するのは難しいというのは理解しやすいと思います。余談ですが、私は子供の頃、UFOやネッシーの話が大好きでした。また、サプリメントの多くには軟骨の成分などが含まれていますが、そう言った成分が直接軟骨に届くことはありません。消化・吸収されるときにもっと細かい物質に分解されてしまうからです。とはいっても、軟骨の材料となるものをたくさん摂取すれば何となく効果がありそうな気もします。日本整形外科学会はサプリメントについて、どちらかというと否定的なコメントをしています。では、海外の学会はどうでしょうか。海外の学会でも、サプリメントについては、有効性を判断する材料となる科学的な論文の数が少ないので、判断できないとしているものが多いようです。学会のガイドラインは、効果があるという論文が1つか2つでは正式なコメントを出しません。有効性を示す論文がいくつもあって、初めて何らかのコメントを出します。しかしその中で、国際関節病学会という学会の変形性膝関節症に対するガイドラインには、「サプリメントは、変形性膝関節症患者の一部には効果があるかもしれないが、半年服用しても効果が無ければ中止するべきである」と書かれています。このガイドラインを参考にするならば、試しに服用してみる のも良いのかもしれません。

最後にサプリメントに対する私の考えをお話しします。サプリメントを飲んでいる、または飲もうかどうか迷っているという方は、自分の健康に対して関心が高い方だと思います。これからも、サプリメントを含めて、ご自身の健康への関心を持ち続けて下さい。ただし、サプリメントだけに頼らずに、食事、睡眠、運動など、色々な方法で健康増進をしてください。サプリメントは錠剤を飲むだけで簡単なのですが、世の中に魔法の薬はありません。毎日の少しの努力が積み重なって健康寿命は延びると思います。 令和の時代が皆様にとって素晴らしい時代になることを祈念して、今回のお話を終わらせていただきます。


人工股関節全置換術後の合併症

人工関節学講座 准教授 河野 俊介

しっとりとした空気に緑の香りが漂う初夏を迎え、皆様いかがお過ごしでしょうか。御無沙汰している方も多数いらっしゃいますが、紙面でのご挨拶にて失礼致します。今回の‘股関節だより’では‘人工股関節全置換術後の合併症’に関して書かせて頂きます。当施設では「思いやりのある効率的で質の高い医療を理念とし、そのための教育と研究を行う」をテーマとし、合併症ゼロを目標として診療を行い、様々な合併症対策を実践してきました。人工股関節全置換術後の合併症の主なものとして、出血、血栓・塞栓症、創治癒障害、脱臼、術後感染、骨折、インプラント初期固定不良、摩耗、ゆるみなどがあります。2013年4月から2018年3月に当院で初回人工股関節全置換術を行わせて頂いた2010股の患者さんを対象として術後合併症発生数と再手術数を調査したところ、残念ながら49股(2.4%)の方に合併症を認め、23股(1.1%)の方に追加手術が必要な状態でした。合併症の内訳は創治癒遅延・表層感染5股(0.3%)、深部感染4股(0.2%)、血栓・塞栓症2股(0.1%)、神経麻痺4股(0.2%)、周術期および術後骨折5股(0.3%)、脱臼15股(0.7%)、インプラントの初期固定不良12股(0.5%)、ゆるみ0股(0.0%)となっていました。再手術(再置換術)を行わせて頂いた患者さんは、脱臼6(6)股、深部感染4(1)股、創治癒遅延・表層感染3(0)股、インプラントの初期固定不良10(10)股、周術期および術後骨折3(0)股、術後骨折1(0)股となっており、ご迷惑をおかけいたしました。

今回の調査で合併症の発生は、変形が軽度の患者さんでは少ないですが、高位に脱臼している方、強直股関節(股関節が動かない)の方、外傷性股関節症(股関節周囲の骨折による変形)の方で合併症の頻度が高くなることがわかってきており、軟部組織の更なる温存・修復、骨頭径の選択、固定裸子や骨移植の追加などの対策を追加しております。10年前の調査よりは合併症・再手術数ともに少なくすることはできていましたが(表1)、目標である‘合併症ゼロ’には、更なる努力が必要で、人工股関節の手術は安全ですからと皆様に言える日が来るように精進してまいります。 今後も、手術後の満足度を上げる事ができる様に 頑張りますので、お気付きの点がありましたら、診 察時にお伝え下さい。また、疑問な点や気になる事 がありましたら診察やメールにてお尋ね下さい。


人工股関節術前後の歩行速度の経年的変化

助教 江頭 秀一

股関節だよりをご覧のみなさま。小暑の候、お元気に過ごされていますでしょうか。
昨年度より大学で診療させて頂いております、江頭です。今年度より北島先生の後を引き継いで外来
診療させて頂いております。私は新患の担当でもあるため、以前よりお待たせしてしまう事もあると思います。この場をお借りしてお詫び申し上げます。出来るだけお待たせしないよう努めてまいります。さて今回は、術前後での歩行速度についてお話しさせて頂きます。術前は痛みや可動域制限により歩行が制限されている方が多く、その分早く歩く事ができなくなり歩行速度が遅くなります。人工股関節によりそのような障害が取り除かれれば痛みが出る前のように歩く事ができますが、どのように改善していくのでしょうか?片側変形性股関節症36名の術前後の歩行速度を術前、術後1,2,3,5年目まで測定させて頂き、結果を検討しました。

結果は、術前と比較し1年目には全ての方で大きく改善し、3年目以降で定常化していました(図1)。年齢によりグループ分けを行い比較した所、65歳未満のグループは同様に1年目で大きく改善し、3年目以降の5年目でさらに大きくなる結果が得られました(図2)。また、70歳以上のグループでも術後1年目には大きく改善がみられ3年目まで上昇していましたが、5年目には若干低下していました(図3)。今回の検討では、歩行速度は年齢に関係なく術後1年で大きく上昇し、それが3年目まで期待できるが、それ以降は年齢により経過が分かれるという結果でした。70歳以上でも手術により歩行は改善され元気に歩けるようになり、また3年目以降は回復した機能を維持できるよう再度気を引き締める必要がありそうです。元気に歩けるようにこれからもサポートさせて頂きます。実は佐賀大学の歩行検査の設備は世界トップクラスのものが設置されております。着替えが必要などお手間を取らせてしまいますが、このような情報は手術を迷っておられる方や年齢のためあきらめている方々にとって大変有益な情報となります。検査をお願いしている患者様におかれましては、できれば 継続して検査をお願いできればと思っております。 何か気になる事などございましたらお気軽にお尋ね ください。今年1年も宜しくお願い致します。


新任の挨拶

人工関節学講座 助教 井上 美帆

初めまして。4月より佐賀大学整形外科に勤務しております、井上美帆と申します。佐賀県佐賀市出身で、平成19年に九州大学を卒業しました。佐賀、福岡での初期臨床研修終了後、結婚を機に夫の仕事の都合で神戸に行くこととなり、神戸大学整形外科に入局し、研修を行いました。今回、大好きな佐賀に戻ってくることになり(離婚はしていませんよ)、佐賀大学整形外科に入局いたしました。佐賀の地で医療に貢献できるよう、これからも努力していく所存です。現在は主に股関節、上肢疾患について病棟を中心に担当させていただいています。また、手外科、リハビリテーションを専門として研修してきましたので、その面でも皆様のお役に立てればと存じます。佐賀大学では、トップレベルの関節外科を間近に見ることができ、さらに世界が広がる一方、自分の技量の未熟さを痛感させられる毎日ですが、明るく楽しく頑張っていきたいと思いますので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。

助教 坂井 達弥

股関節だよりをご覧の皆様、こんにちは。2019年4月より佐賀大学整形外科で勤務しております、坂井達弥と申します。出身は佐賀県小城市です。2011年3月ぶりに佐賀大学に戻ってまいりました。これまでは、嬉野医療センター、長崎医療
センター、町立太良病院、佐賀中部病院にて整形外科医として研鑽を積んでまいりました。これまでの経験を活かしながら、整形外科診療に従事してまいります。専門は足の外科ですが、お困りのことなどございましたら何でもお声がけください。宜しくお願い致します。

医員 溝田 将吾

股関節だよりの読者の皆様、こんにちは。2019年4月より佐賀大学医学部附属病院整形外科にて勤務しております、溝田将吾と申します。佐賀県医療センター好生館で2年間初期研修医として勤務し、今年度より整形外科の道を志しました。幼い頃は父の転勤のため九州内を転々としていましたが、小学生の頃から佐賀に住んでいます。出身は?と聞かれると、堂々と佐賀と答えるぐらい佐賀のことが好きです。 佐賀の整形外科診療に貢献できる医師 になりたいと思っています。まだまだ未 熟者でありますが、精一杯頑張りますの で、どうぞよろしくお願いします。

医員 古賀 有香里

股関節だよりの読者の皆様、こんにちは。そして初めまして。平成31年4月より佐賀大学医学部附属病院で勤務しております古賀有香里と申します。昨年度に大学病院で勤務しておりました伊藤恵里子医師の姉になります。出身は福岡県北九州市で、平成29年に佐賀大学医学部を卒業し、佐賀大学医学部附属病院で2年間研修を行い、今年度より整形外科に入局いたしました。妹の後輩という不思議な立場にはなりますが、妹と同じく皆様のお役に立てるよう日々精進してまいりたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

大学院 村山 雅俊

股関節だよりの読者の皆様、こんにちは。2019年4月より佐賀大学医学部大学院に入学しました村山雅俊と申します。出身は佐賀県鹿島市です。平成25年に佐賀大学医学部を卒業し、佐賀大学で初期研修を行い、平成27年に整形外科に入局しました。初年度は佐賀大学で勤務し、その後は、長崎労災病院(佐世保)、熊本機能病院、長崎医療センター(大村)と県外の病院で経験を積ませていただきました。病院勤務中は骨粗鬆症による脆弱性骨折の症例を経験することが非常に多く、骨粗鬆症の治療が大事だということを実感しました大学院では、骨粗鬆症に関与する骨代謝についての研究を行っております。研究を通して得たものが臨床に応用できるように日々精進していく所存です。今後ともよろしくお願い致します。


平成29年 股関節だより送付状況

医局 野中 寿栄

2018年股関節だより・脊椎だよりの送付状況は以下の通りです。 全体で7831名(内訳:佐賀県内3148名、九州(佐賀県除く)3146名、九州以外580、脊椎だより957名)になります。全体的に400名近くお送りいたしました。来年も皆様にさまざまな情報をご提供していきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。また、整形外科のホームページも完成し、WEB上でも股関節だより・脊椎だよりを閲覧することができるようになりました。