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2016.07.10

脊椎便り 第6号

  • ごあいさつ(講師 森本 忠嗣)
  • 新任の挨拶
  • 脊椎圧迫骨折に対するバルーンカイフォプラスティ(BKP)(助教 前田 和政)
  • ミャンマー医療支援(講師 森本 忠嗣)
  • 忘れられない患者さん3

内容

ご挨拶

講師 森本 忠嗣

2011年より佐賀大学整形外科にて、脊椎(くびや背中や腰)や脊髄の病気の診断、治療を行いはじめ6年が過ぎました。馬渡教授をはじめ諸先生方、病院スタッフ、優しい患者さん達のおかげで恙無く診療に臨めています。本当に感謝しています。

脊椎班のスタッフですが、2015年4月の森本、塚本から、2016年4月からは森本、前田の2人体制になります。

  • 前田先生は8年ぶりの大学勤務です。えにわ病院、長崎労災病院、佐賀記念病院などで研鑽を積み、脊椎脊髄病学会指導医を取得しています。患者さんを大切にする経験豊富な先生なので、期待大です。
  • 塚本先生は2016年4月より北海道のえにわ病院に研修に行くことになりました。日本屈指の脊椎手術例の多い病院であり、パワーアップして帰ってきてくれることを期待しています。
  • 吉原先生は大学院での研究も軌道に乗りかけといったところです。腰部脊柱管狭窄症の病態解明に踏み込み、この病気に苦しむ患者さんを減らすことに寄与してくれればと思います。

今号では前田先生、塚本先生、吉原先生の挨拶や近況報告などを掲載していますのでご参照ください。

鎌田實先生の「がんばらない」という本の中に以下のような記載があります。

 “医という字は、かつて醫と書いていた。いくつかの解釈があるようだが、医は矢を引くということで、人間の「技術」を示し、殳は役の一部で「奉仕」を示し、酉は神に酒を奉ることで、「祈り」や「癒し」を示しているともいわれている。醫から医に字が変わったときに、医療は本来もっていた「技術」と「奉仕」と「祈り」の三位一体を忘れ去り、技術にのみ走っていったのではないだろうか。”

 大学で「技術」のみに走りがちで、奉仕や癒しの心を忘れがちな自分達に喝をいれるために、<脊椎だより>を作成し、第2号では “・・・皆さまに脊椎の病気、治療方法、術前後の注意点、日常生活の注意点、最新の話題など有用な情報を提供し、今後のケアや定期検診に役立てたいと思います。” と記載し、病気やリハビリ情報など記載してきました。

第6号では、前田先生が脊椎圧迫骨折に対するバルーンカイフォプラスティ(BKP)について報告してくれていますのでお目通しいただけますと幸いです。

また、今年も私のミャンマーの医療支援について記載しています。

最後に、今年は学会・研究会(西日本脊椎研究会、九州MISt研究会)を主催させていただきます。多くの脊椎外科医の先生方に役に立ったと思っていただくような会にできるように鋭意準備しています。

・・・などなど、診療(外来・手術)・教育・研究以外にも色々と忙しくなってきましたが、艱難汝を玉にすという言葉を信じ、自らを律し、寸暇を惜しんで研鑽を積む所存です。

<脊椎手術内訳>

2015年度(2015年4月より2016年3月まで)185例(昨年は140例)でした。大学病院ですので、頭蓋頚椎手術、成人脊柱変形手術(胸椎から骨盤までの固定)、腫瘍、化膿性脊椎炎、外傷(脊椎損傷)、の手術などが増加し、週に1日は急患手術で夜になる生活です。

今年度は日本脊椎脊髄病学会の指導医2人体制(森本、前田)になるので、さらに、手術数は増えると思います。また、今後も、大学病院の特徴を活かし、他科との連携を密にし、様々な合併症のある患者さんでも安全に手術が行えるように心がけていきます。

<学会発表>

脊椎班として全国学会としては日本脊椎脊髄病学会に5題(昨年4題)、日本整形外科学会総会6題(昨年4題)、ISSLS(国際腰椎学会 今年はシンガポール)5 題(昨年3題)と全て昨年より多くの発表ができ、研究も少しずつ前進しています。脊椎班スタッフの頑張りに感謝です。

やはり、用意周到に複数の研究を進めていくことが重要だと痛感しています。

今後も佐賀大学整形外科の伝統である1日3回以上回診を続けて、患者さんの診察をさせていただくなかで見えてくることを大事にしていきます。

“脳卒中を減らすには一人のブラックジャックより食塩を減らすほうが大事”

 こんな事実を見つけれるようにしたいと思います。
今後ともご協力よろしくおねがいします。


新任の挨拶

助教 前田 和政

平成28年4月から佐賀大学に勤務させて頂いています。今まで嬉野医療センター、長崎労災病院、佐賀記念病院などで勤務し、脊椎外科を中心に診療してきました。当院で更に研鑽を積み、脊椎疾患で悩まれている患者さんのお役にたてればと思っています。

趣味はJ1サガン鳥栖の応援です、ホームゲームでは行ける限りスタジアムへ行きます。今シーズンは試合内容はいいのに、なかなか勝てないのでへこみがちですが、毎試合頑張って応援しています。宜しくお願いします。

【資格】

日本脊椎脊髄病学会指導医、日本整形外科学会脊椎脊髄病認定医、日本整形外科学会専門医、日本体育協会公認スポーツドクター

【所属学会】

日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会、日本腰痛学会、西日本脊椎研究会など


脊椎圧迫骨折に対するバルーンカイフォプラスティ

助教 前田 和政

【脊椎圧迫骨折とは?】

脊椎圧迫骨折(最近は椎体骨折ともいいます)とは、背骨(椎体)が、押しつぶされるように変形してしまう骨折です。主な原因は骨粗しょう症です。

骨粗しょう症になると、尻もちや重いものを持ち上げたり、ちょっとしたことで骨折したり、また何もしなくても起こることもあります。

ほとんどの人で背中や腰の痛みを感じますが、しばらくすると治ることもあります。特に起き上がりや立ち上がりに痛みが出現し、じっとしていると痛みが軽いことが特徴です。

骨折が起こりつぶれると、背骨全体のバランスが崩れて他の椎体にかかる負担が大きくなり、1 年以内に次の骨折が発生しやすくなります。

【検査】

◆単純X線検査

日ごろから撮影していて新しく骨折が出現していたらわかりますが、そうでない場合には新しい骨折か古い骨折かはわかりません。また骨折直後の場合には、わからないことがあります(整形外科でも、レントゲンでは骨折ないですねと言われます)。

◆MRI検査

有用な検査です。早期の骨折でもほぼわかります。

【治療】

◆保存治療

コルセットやギプスを装着し、しばらくはベッド上で安静を保ちます。また、痛み止めや骨粗しょう症の薬を使用します。

◆手術治療

保存的治療を行っても痛みなどが持続し、日常生活に支障がでている場合に手術治療を行うことがあります。手術治療としては金属製のねじや棒で骨を固定します。手術を行うのは、骨折患者さんの約1割程度と言われています。


【新しい治療法 バルーンカイフォプラスティ】

1990年代にアメリカで開発された新しい治療法です。日本でも2010年2月に厚生労働省の承認を得ました。

つぶれてしまった椎体を、骨折前の形に近づけ、椎体を安定させ、痛みを和らげる治療法です。特徴として、短時間の手術(1時間以内)、早期に痛みの軽減が行えることなどです。

保存的治療によっても背骨の痛みが改善されない方が対象になりますが、骨折した骨の部位や形などによって、対象とならない方もおられます。

専門のトレーニングを受けた医師が手術を行いますが、手術の一般的なリスクや、骨セメントを使用することによるリスクもあります。主治医の先生としっかり話し合うことが重要です。

いかがだったでしょうか。痛みが続く場合にはご相談ください。

まずは早期診断してもらい、しっかりとした保存的治療を行うことが重要です。


ミャンマー医療支援

講師 森本 忠嗣

 2016 年1月初め、三重大学の笠井裕一先生(脊椎外科教授)、岐阜市民病院整形外科の宮本敬先生と、ミャンマー医療支援(脊椎手術および指導)に従事しました。ミャンマー人医師と再会し、今年も相変わらずの歓待をうけ、友好にもつとめてまいりました。

日本資本、中国資本、韓国資本の病院、デパート、ホテルなどの建設ラッシュで毎回、様変わりする街の様相にびっくりさせられます。

■手術

 マンダレー大学病院とヤンゴン脊椎センターに行き、5日間で16例の手術を行いました。
印象的だったことは、

1) やはり脊椎カリエスは相変わらず多い:
カリエスの治療はミャンマー人のほうが上手なのではとも思いましたが、“やってくれ、見てみたい”とおだてられて(?)やってきました。
ミャンマー人スタッフに私が知っているコツをなるべく教え、ミャンマー人にもやってもらいました。会話は英語とミャンマー語と日本語のちゃんぽんです。

2) はじめて英語で講演をしました。

質問にもなんとか答えた(つもりです)。

ミャンマー医療支援は、いつも、武者修行の場です。

■ 今年も佐賀の数院の病院にご協力いただき手術器具を集めて寄附しました

今年は食事にかなり気をつかい体調壊すことなく帰国できました。

最後に、快く送り出して頂いた教授はじめ佐賀大学整形外科に感謝しています。


<忘れられない患者さん3>

忘れられない患者さん2(脊椎だより第5報参照)を経験した後のことです。

多くの医師は、平日は帰りが遅く、なかなか家族と夕食をとることができません。そのために、週末の家族団欒での食事を、本人・家族ともども楽しみにしています。

ある週末に、家族で外食に向かう途中のことでした。信号待ちしていた私たちの車の眼の前で、自転車走行中の男子高校生が車にはねられたのです。「折角の休日の外食の機会なので、高校生君許して頂戴」と、このまま、見て見ぬふりをして、やり過ごそうかという悪魔の考えも浮かびましたが、良心を枉げることはできませんでした。応急処置に向かうことを家族に述べ、家族はもちろん同意し、近くのコンビニに停車し、救急車を呼び、高校生の応急処置を行いました。

下肢の挫傷程度のようでしたが、痛みも強く、病院搬送が必要な状況でした。救急隊が病院を探していましたが複数の病院が対応困難との返事のため、私が勤務していた病院に電話して、「森本先生が診るなら受け入れOK」と当直医より返事をもらいました。そのため、救急車に私が同乗することになりました。そんな中で、慌ただしい雰囲気に飲まれて半べそになっている娘たちが目に入りました。救急車は病人・怪我人が乗るものということを理解できるようになってきた娘たちに、「お父さんは病人でないから心配しなくて良い」ことを説明し、「ご飯いけなくなってごめんね」と謝罪して救急車に乗り込みました。

男子高校生は幸い骨折もなく当日帰宅可能で、本人・ご家族より感謝され、よかったと安堵していた頃でした。病院では「森本先生が前回に続いて患者を車ではねて、病院に運んできた」、と間違った情報が駆け巡っていました。

事務職員A「先生またですかー。自分ではねて自分で患者を病院に連れてくるのは、もうやめてくださいよー。」

事務職員B「お祓いに行った方がいいですよ」

看護師「一応、上層部にも報告して、患者さんのために特別室を準備しています。」

 などの心配りをしていただきました。優しいスタッフに感謝しつつ、グーパンチを浴びせたい気持ちでした。

「俺、いいことしたはずなのに・・・。」