見学のお問合せ

2017.07.10

脊椎便り 第7号

  • ごあいさつ(講師 森本 忠嗣)
  • 腰椎すべり症(助教 前田 和政)
  • 近況報告(大学院 吉原 智仁)
  • ご挨拶ならびに近況報告(大学院 平田 寛人)
  • ご挨拶ならびに近況報告(佐賀記念病院 整形外科 塚本 正紹)
  • 海外医療研修・ミャンマー医療支援(講師 森本 忠嗣)
  • 忘れられない患者さん4

内容

ご挨拶

講師 森本 忠嗣

 佐賀大学整形外科にて、脊椎(くびや背中や腰)や脊髄の病気の診断、治療を行いはじめ7年目を迎えました。馬渡教授をはじめ諸先生方、病院スタッフ、優しい患者さん達のおかげで恙無く診療に臨めています。本当に感謝しています。

 脊椎班のスタッフですが、2016年4月からは森本、前田の2人体制ですが、今年度も同様の体制で望みます。

 前田先生は、えにわ病院、長崎労災病院、佐賀記念病院などで研鑽を積み、昨年は佐賀大学で八面六臂の活躍をしてくれ、手術数増加に貢献してくれました。おかげで私の負担は軽減しました。

 塚本先生は北海道のえにわ病院での研修で研鑽をつみ、パワーアップして帰ってきています。2017年4月より佐賀記念病院に勤務となり、活躍を期待しています。

 吉原先生は大学院での研究も迷走していましたが、やっと、軌道に乗りはじめました。脊椎変性疾患の病態解明に寄与する(と思われる)研究もしており楽しみです。

 平田先生が、佐賀大学脊椎班のメンバー入りしてくれました。長崎労災病院、佐賀記念病院などで研鑽を積み、2017年4月より大学院へ進学です。

 脊椎だよりでは、“皆さまに脊椎の病気、治療方法、術前後の注意点、日常生活の注意点、最新の話題などの情報を提供し、今後のケアや定期検診に役立てたいと思います。” と以前に記載したとおり、病気やリハビリの情報など提供してきました。第7号では、前田先生が 医療情報の提供をしてくれていますのでお目通しいただけますと幸いです。また、塚本先生、吉原先生、平田先生の挨拶や近況報告なども掲載しています。私はミャンマーの医療支援、インドネシア・中国の病院研修について記載しています。

 “Think globally, act localcally”(地球規模で考え、それぞれの地域で行動する) という好きな言葉があります。高校の教科書にも載っているらしく、環境、教育、経済、ビジネスなど様々な文脈で使われています。

 私の置かれた状況での解釈は、1)世界レベル(最先端)を意識して佐賀で医療を行う、2)世界で活躍することを視野にいれ地道に佐賀の医療に貢献するです。今の私の行動の座標軸にしています。診療を一生懸命やるのは当然ですが、それだけでなく、国際感覚とリサーチマインドも重視して、脊椎班の仲間と臨みたいと思います。

 今後共よろしくお願いします。

<脊椎手術内訳>

2016年度(2016年4月より2017年3月まで)は日本脊椎脊髄病学会の指導医二人体制(森本、前田)になり、手術数は増加し、年間206例(昨年は185例)でした。年間200例が目標でしたので、やっと目標クリアです。

 馬渡教授、前田先生はじめ、支えてくれた皆様に感謝です。

 成人脊柱変形(胸椎から骨盤までの固定)、腫瘍、化膿性脊椎炎、外傷(脊椎損傷)などの手術が比較的増加してきています。

 “Think globally, act localcally”の観点から、安全に最先端の治療を、佐賀で提供することを心がけています。今後も、大学病院の特徴を活かし、他科との連携を密にし、様々な合併症のある患者さんでも安全に手術が行えるように心がけていきます。

<学会活動>

 脊椎班として全国学会としては日本脊椎脊髄病学会に3題、日本整形外科学会総会4題、ISSLS(国際腰椎学会 今年はギリシャ)4題と研究も少しずつ前進しています。まだまだですが、用意周到に準備しなくてはと感じる日々です。

 西日本脊椎研究会で「佐賀県の3次救急医療機関における上位頚椎損傷患者の臨床像」という論文を奨励賞に選んでいただきました。佐賀大学で働きはじめ、高齢者の転倒による環軸椎複合損傷を多数経験しました。カンファレンスで馬渡教授から“上位頚椎損傷における環軸椎複合損傷の頻度は?”と問われましたが回答できず、調べても詳細な検討例もありませんでした。また、患者背景が高エネルギー損傷の若年者から軽微な外傷による高齢者(脆弱性骨折)へと変遷してきているのではと思い、この2つのことを調べてみたのが、この論文です。ご指導いただいた馬渡教授に深謝いたします。

 賞金は一部は研究を手伝ってくれた秘書たちにお渡しし、残りは大学に寄附しました。

 今後も佐賀大学整形外科の伝統である1日3回以上回診を続けて、患者さんの診察をさせていただくなかで見えてくることを大事にしていきたいと思います。

 今後ともご協力よろしくおねがいします。

論文を奨励賞

腰椎すべり症

助教 前田 和政

 股関節だより第18号(H18年1月)で変形性股関節症の患者さんには、腰椎変性辷り症の合併が多いと報告させて頂きました。11年前のことですが、覚えておいででしょうか。

 その後も他施設から同様の報告がされており、約20-30%合併すると報告されています。これは有病率5-10%との報告に比べて、高い頻度です。また、加齢、女性、肥満などが危険因子として挙げられています。

 一般的には、女性の第4腰椎(頭側から数えて4番目)に好発し、すべりの程度は1/3以内です。今のところ、原因はまだ不明です。

 股関節と腰椎は相互に作用しあっており、どちらか一方が悪くなると、さらにもう一方が悪くなることがあり、Hip-Spine Syndrome(ヒップスパインシンドローム)と呼ばれています。股関節が悪い患者さんは、腰も悪くなる可能性が高いと考えられます。もちろん、どちらか一方が主に悪いこともあるので、よく診察を受けてもらい治療することが大切です。

 この病気では腰部脊柱管狭窄症と同様の病態で、同様の症状が出ます。腰部脊柱管狭窄症については比較的最近吉原先生からお話があったのですが、覚えておいででしょうか(H25年6月)。

 腰痛や下肢痛しびれが出現します。また、少ない距離なら歩けるのですが、立ったり・歩いたりしているとお尻や太ももの部分が痛くなって、歩けなくなります。けれども、少ししゃがんで休めば楽になって、また歩けます。これを間欠跛行といいます。

 腰椎の「ずれ」についてはX線(レントゲン)検査で診断します。腰椎を前後に曲げた状態での撮影で、よりはっきり診断がつきます。MRIによって神経の圧迫の程度がわかります。

 内服やブロック注射などを行っても症状が改善せず、歩行や立位の保持が制限されて日常生活に支障が出てくれば、また筋力低下や尿が近くなったりする症状が出現すれば、手術的治療を検討します。

 手術は「ずれ」や「動き」の程度によって、神経の圧迫を取るだけの椎弓切除術の場合と、固定術(図1)を行う場合があります。最近は、XLIF(エックスリフ)やOLIF(オーリフ)といった新しい手術方法もあります。低侵襲のため、出血が少なく、術後の痛みが軽いという利点がありますが、お腹の横から行うので、腸や尿管などの損傷の報告があります。

 大事なことは、よく診察を受けて頂き、しっかりと主治医の先生と相談することだと思います。当院の脊椎外来も月・水・金に行っていますので、何かあれば御相談下さい。

腰椎すべり症図1 上段:術前/下段:術後
(すべりが戻っていることがわかります)


近況報告

大学院 吉原 智仁

 平成27年4月から佐賀大学の大学院へ進学し、早くも2年が経過しました。

 現在は研究中心の生活を送りつつ、脊椎の手術と外来を週1回行っています。

 昨年4月に日本整形外科学会認定の脊椎脊髄病医の資格をとることができ、本年度に日本脊椎脊髄病学会認定の指導医の資格をとる予定にしております。

 大学院の研究についてですが、『生化学分野』の教室で慢性炎症・創傷治癒・アレルギーなどに関係があるタンパク質(ペリオスチン)の研究を行っています。そのぺリオスチンが細胞の増殖(細胞周期)を調節していることを証明することを研究のテーマとして論文作成にむけて少しずつではありますが前進しております。またこのぺリオスチンは整形外科疾患にも関わりがあり、代表的なのが膝の関節炎の発症、増悪などに関係していることです。またぺリオスチンは骨粗鬆症との関係があると近年報告されているため、佐賀大学の脊椎班でもペリオスチンと骨粗鬆症についての研究を進めていく方針となりました。この研究がうまくいけば骨粗鬆症の新たな病態解明や予防につながり、患者さんに貢献できるのではないかと思っています。

 大学院ではあと2年研究を続ける予定です(順調にいけばですが…)。その後は臨床に戻る予定ですが、臨床をしていた時と比べると10㎏近く太ってしまったため、以前のように動けない可能性が大です。最近、なるべくエレベーターを使わず階段を利用するように気掛けていますが、膝や腰にダメージが…。

…でも頑張ります。


ご挨拶ならびに近況報告

大学院 平田 寛人

 皆様初めまして、このたび佐賀大学脊椎班の仲間入りをした平田寛人です。医師3年目では大学病院、4年目から5年目は長崎労災病院、6年目の去年は佐賀記念病院で働いていました。本年度は大学院に進学し目下、研究中の身です。

 さて整形外科とひとくくりにされることが多いですが、整形外科が担当する領域は非常に多いです。例を挙げると、股関節・膝関節・脊椎脊髄・肩関節・関節リウマチ・肘関節・足関節・手関節…さらに細分化していくと枚挙にいとまがありません。

 もちろん全ての領域に精通することを目指して日々勉強なのですが、私は今までの臨床経験から脊椎外科領域の診察・治療・手術に惹かれ、医師6年目から脊椎・脊髄外科をライフワークとして選択しました。

 とにかく朝から晩まで働いていた日々でしたが、やりがいのある仕事ですから、まったくと言っていい程、苦ではありませんでした。傷の付け替えでの土日出勤も自分が気になるから出勤するだけで、趣味の延長のような状態でした。また緊急手術ではむしろテンション(やる気と解釈してください)が上がる体質のようで、自分の天職ではなかろうかと思っています。そんな環境が続いていましたが、元来私は研修医の頃からどこかのタイミングで腰を据えて一つのことを徹底的に勉強したいと思っていました。その気持ちが再燃しつつあるそんな時に馬渡教授・当時医局長の河野先生から大学院進学の選択肢を与えていただきました。今年が医師7年目で専門医をとれる学年となり、節目の学年となりました。臨床をずっと続けることも考えましたが、やはり研修医時代から思い続けていたことをやりたいと、一度メスを置き、大学院に進学することを選択した次第です。

 現在は大学病院の敷地内にはいますが、基本的に基礎研究棟で破骨細胞の研究に没頭しています。4年間は徹底的に顕微鏡とお付き合いしていこうと思っています。

 そういうことですので、たまに外来のお手伝いをしている私とお会いすることもあるかもしれませんが、基本的には引きこもってなかなか会えないレアキャラクター(!?)となる予定です。そんな私ですが今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。では来年度の脊椎だよりでお会いしましょう!!


ご挨拶ならびに近況報告

佐賀記念病院 整形外科 塚本 正紹

 脊椎だよりをご覧の皆さま、こんにちは。

 本年4月より佐賀記念病院で診療させていただいている塚本正紹です。

 3月までは北海道恵庭市にあります“我汝会えにわ病院”で国内留学させていただいておりましたので、この場を借りて、“北海道恵庭市”ならびに“えにわ病院”のご紹介と私の研修報告をさせていただこうかと思います。

北海道恵庭市

 まず北海道恵庭市ですが、札幌と新千歳空港のちょうど中間にあたる位置にあり、交通アクセスが非常によいまちです。市内には北海道文教大学などの大学・専門学校、工業団地などがあり、人口は約68,000人、面積は約300平方キロメートルほどです。(広さは伊万里市より若干大きいくらいでしょうか。) 年平均気温は7.1度(佐賀市は17.1度)で、3月末でもまだまだ雪がたくさん残っていました。昨年は年末に大雪が降り、道路脇には2mほどの雪山ができあがっており、宿舎駐車場にも1m以上の雪が積もりました。子供達は家の目の前でそり遊びができたり、かまくらがつくれたりと大喜びでしたが、大人は雪かきにうんざりの毎日でした。

 北海道といえば、皆さまも美味しいものを想像されるのではないでしょうか。海の幸から山の幸まで各地に名産・名物料理がたくさんあります。近所のスーパーにはウニ(殻付き)や毛ガニが普通に置いてあり、もちろん精肉コーナーには普通にラム肉があり、少し驚きました。(佐賀のスーパーにアゲマキガイやムツゴロウがあるのと同じなのでしょうが…。)美味しい食材のせいか、佐賀に帰ってきてからは、久しぶりに会う方々に口を揃えて大きくなったねと言われます。

 さて“えにわ病院”ですが、整形外科19人、麻酔科医5人、内科医2人というスタッフの内訳をみてもわかる通り、整形外科に特化した非常に専門的な病院です。昨年の手術件数も、脊椎693 件、股関節616件、膝関節657件、肩関節260件と非常に多く、全国の整形外科医でその名を知らない人はいないというくらい有名な病院です。法人名の「我汝会」(我と汝)にあるように患者様本位の最善の医療を提供するとともにスタッフが心身ともに充実して働ける魅力ある病院となっています。(インターネットでの口コミ評価も高い病院です。

えにわ病院
(えにわ病院HPより)

 私が所属していた脊椎グループは、佐藤栄修副院長をはじめとした4名のスタッフ(うち3名は全国でも数少ない日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医)、私を含めた2名の研修医の計6人で診療にあたっています。毎日平均3~4件の手術があり、腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアといった一般的な手術から、脊椎側弯症や腰椎前方固定術といった専門性の高い手術まで幅広く勉強させていただきました。

 えにわ病院の佐藤先生は、「脊椎手術には3つの誤りがある、すなわち診断の誤り・手術法選択の誤り・手術手技の誤りである。だからたくさんの患者さんを診て、たくさんの手術を見て、たくさんのことを勉強しなさい。型がある人が破るから“型破り”、型がなければ“形無し”よ。」といつもおっしゃっていました。脊椎の手術はたくさんのコツと落とし穴に満ち溢れていますが、経験豊富なえにわ病院の先生方からは、このたくさんのコツと落とし穴を本当にいろいろと教えていただきました。

 今年からは北海道の地で学んだたくさんのことを佐賀で還元していきたいと思います。そして自分なりの型を見つけ、1人でも多くの患者様のお役に立てればと思っております。

 最後になりましたが、脊椎だよりをお読みになっている皆さまが本年も健康に過ごされますように心からお祈り申し上げます。

えにわ病院
(えにわ病院HPより)

海外医療研修・ミャンマー医療支援

講師 森本 忠嗣

1)Asia traveling fellowship

【インドネシア】

 スラバヤのAirlanga 大学附属病院(Dr Soetomo病院)に訪問させていただきました。ホストは日本の脊椎外科の間でも高名なBambang先生で、手術・回診・カンファレンスおよび関連病院見学などのスケジュールを組んでいただきました。

 回診・カンファレンスでは早朝6 時からBambang先生より非常に熱く教育していただきました。手術は外傷、脊椎カリエスが多く、手術を手際よくなされていたのが印象的でした。私は過去の研究について講演させていただき、スタッフの先生方と有意義な意見交換ができました。また、Bambang先生はじめスタッフの先生方より連日熱烈な歓待をうけ、両国の医療の現在/将来からプライベートにかけて、多くのことを語り合い非常に楽しく忘れられない滞在となりました。

手術・回診・カンファレンスおよび関連病院見学
【中国】

 北京にある北京大学第三病院に訪問させていただきました。Liu教授がホストとなり迎え入れてくれました。整形外科は6グループに分かれており、脊椎グループは扱う部位や病態に応じて4つのグループがあり、そのほか関節グループ、外傷グループとなっていました。脊椎手術は年間で約7000 件を行っているとのことでした。毎日各グループの専門性に特化し、洗練された手術を見学させていただきました。期間中に見学させていただいた手術はC1/2固定術・ACDF・頸椎椎弓形成術・胸椎OYLに対する除圧固定術・腰椎除圧固定術・頸椎腫瘍(再発例)に対する腫瘍摘出+固定術・Scheuermann病の後弯症に対する骨切り術など多岐にわたりました。各分野に特化したSpecialistの先生方の手術を見学し、また、交流することができ、非常に有意義な研修となりました。

北京大学第三病院
【まとめ】

 両施設での諸先生方との交流や医療事情の相違の実感等、大いに刺激を受けてきました。快く送り出していたいだ佐賀大学整形外科の先生方に深謝いたします。貴重な経験を今後の診療に活かし、佐賀での診療に少しでも寄与できるように益々努力してまいります。

2)ミャンマー医療支援ミッション

 2017 年1月初め、三重大学の笠井裕一先生(脊椎外科教授)、岐阜市民病院整形外科の宮本敬先生と、ミャンマー医療支援(脊椎手術および指導)に従事しました。ミャンマー人医師と再会し、今年も相変わらずの歓待をうけ、友好にもつとめてまいりました。

 今回はミャンマーのモーラミャインという地方都市の病院で2日間、その後、首都のネピドーの病院で2日間、合計16 例の手術を行ってきました。

1)モーラミャイン

 脊椎手術は当地では初めてということで、現地スタッフも興味津々で、手術室には多くのスタッフが集まってきました。

 手術室は窓が開いているので術中にも虫が飛んでいました…。

ミャンマーのモーラミャインという地方都市の病院
2) ネピドー

 いつも行く総合病院では手術室が増設してあり、さらに、近くに整形外科の病院が新設され(閣僚の官舎の近く)、両方の病院で手術を行ってきました。
1 やはり脊椎カリエスは相変わらず多い。
2 使用しない手術道具などを大学病院・関連病院から頂き寄附してきました。
3 講演:若い医師相手に脊椎のみならず、日本のことなどを話すよう依頼があり講演してきました。大分度胸がついてきました。

ネピドー病院
連日熱烈な歓待
4)連日熱烈な歓待
ミャンマー
ミャンマー

 今年は食事にかなり気をつかったのですが、お腹を壊してしまいました。

 多分、パパイヤだと思っています。同行された先生も体調を崩され、手術しながら嘔吐され、「あとは任せた」と出て行かれました。俺もお腹痛いとは言えず、なんとか手術を続投できました。

 いつもミャンマーは修行の場です。

 最後に、快く送り出していただいた教授はじめ佐賀大学整形外科に感謝しています。


忘れられない患者さん4

 私は福岡の飯塚市のはずれの山間部で育ちましたので幼少時より川遊びや山遊びが大好きでした。新婚旅行のニュージーランドでも登山やカヌーに妻を連れていき、私は楽しかったのですが、妻より「新婚旅行でなく合宿だ」と嘆かれる始末でした。今も週末は山や川に子供たちを遊びに連れて行きます(妻は時々ならついてきます)。

 さて、整形外科医は国体などでは競技中の事故に備え帯同することがあります。とくに、ラグビー、空手、ボクシングなどのコンタクトスポーツなどでは必ずと言っていいほどです。佐賀で国体があった時に、登山部の帯同医師が不足していたので、喜んで帯同させてもらいました。その時の経験を綴ります。

 登山大会の参加の前日18 時に北山ダムの自然の家に集合、19時に夕食、21 時消灯、翌朝の起床時間は午前3時予定でした。こんな時間に眠れる訳なく、別の帯同医師(整形外科、ラグビー部)がこっそり持参したアルコールをちょっぴり飲みつつ馬鹿話で夜間の0時過ぎまで語りあいました。翌朝、残念ながら遠慮なく午前3時におこされ、バスにゆられて脊振山頂上の自衛隊駐屯地に降ろされました。

 登山部の大会は数日におよび、大会中は、ゴミを山中に捨ててはならず、大会前後に荷物の重さも計量されるとのことで、リュックの中にはゴミも入っています。そして、風呂もはいっていないのか、表現しがたいフレーバーが漂っていました。

 男子か女子か、いずれに帯同するか。男子側はフレーバーが強いという噂も流れており、また、コースも険しいらしい。年長の空手部出身の私とラグビー部出身の後輩の間では、特に揉めることなく自然に私が女子側に帯同となりました(人徳ですね)。

 登山コースは脊振山からスタートです。遭難や事故などに備え、自衛隊員も同行し、医療道具なども運んでくれました。上り下りの続く稜線の山道を自衛隊の方々と語りながら歩いていましたが、そのうち、日も煌々と照りだし、「意外とこれきついかも」から、「ちょっとやばい」になり、昨日の浅はかな寝不足を後悔し、だんだんと無口になりました。少しきつめの山道を下って上ってほっとしていたところで、後方より「ドクター」と声がかかりました。初の出動です。困っているだろうからと駆け足で向かいました。可愛い子だといいなと少し不純な動機も歩みを加速したことは否定できません。

 山の斜面に人だかりがあり、その中に患者が倒れていました。可及的にゼイゼイはあはあしている様子を押し殺し診察にむかいました。

 患者は残念ながら(?)女子高生ではありませんでした。妙齢女性の帯同されていた学校教員でした。多少驚き愕然とし、正直言えば、「この●△*。引率教員が競技の邪魔をするな。」と危うく口に出すところでした。可愛い女子高生を救助するという淡い期待を挫かれ、がっかりしていた気持ちがあったことは否定できません。そんな己の浅ましさを恥じ、すぐに、気を取り直して対処させていただきました。ただの捻挫で大事に至らず胸をなでおろしました。

 私の佐賀国体登山の帯同医師の唯一の仕事は、引率の妙齢の教諭の捻挫の対処でした。

 これも帯同医師の仕事ですよね。