【インド留学記④】チャイと笑顔と混沌と。ムンバイで“観光する”ということ

佐賀大学医学部附属病院 平田寛人

????観光客モード、ON。ムンバイを歩いてみた

インド生活にも少しずつ慣れてきた頃、
「せっかくだからムンバイを観光してみよう」と思い立ち、ネットで半日ツアーを予約。
迎えは8時半――のはずが、来ない。まったく来ない。

こういうとき、“とりあえず待つ”のは時間の無駄。
海外生活で得た教訓が生きます。すぐに電話をかけると、
「直前予約なので対応不可、明日ならOK」と軽やかに返されました。
これくらいで腹を立てていては、異国では生きていけません。
文化の違いと割り切って、気を取り直して近所を散策へ。

チャイ屋で地元の人と一服したり、洗濯屋や日用品店を見つけたり――
観光地では味わえない“リアルな暮らしの風景”に、少しずつ心がほぐれていきます。

 

 

????️ダラヴィのスラム街で出会った、誇りとチャイと笑顔と

午後は別のツアーで、ムンバイ最大のスラム街「ダラヴィ」へ。
リサイクル工場や縫製場を歩きながら、現地の生活を肌で感じました。

「ここで作った商品、フランスにも並ぶんだぜ」
「お金はないけど、笑顔はある。Welcomeだよ」

作業中のおじさんにチャイを勧められたとき、
“インド”“スラム街”“飲料”――腹痛の三大キーワードが頭をよぎります。
けれど、この好意は無下にできない。思い切って一口飲むと、素朴で美味しい。
“衛生”よりも“信頼”を選んだ瞬間でした。

ツアー中には、現地の子どもたちから何度も声をかけられ、
「ジャパニーズ!?」と囲まれて自然と写真大会が始まる場面も。
インドが日本に対して持つ親しみを、体感する出来事となりました。

 

????️市内観光とマーケットめぐり、そして爆買い

翌日は、ガイド付きで市内観光へ。

ガンジー博物館では、彼の生き方や思想に触れ、
「本当に現地で敬愛されている人なんだ」と実感。
エレファンタ石窟では、岩をくり抜いて築かれた神々の世界に圧倒されました。

マーケットでは、タペストリーやインド柄のネクタイを購入。
インドにしてはやや高めの価格でしたが、ダラヴィでの経験を経た今、
「このお金が誰かの暮らしにつながるなら」と思うと、不思議と財布のひもが緩んでいました。

 

 

????誕生日ビリヤニと、手ぬぐい外交

帰宅後、ルームメイトとZomatoで夕食を注文しようとしていたところ、
玄関チャイムが鳴り、隣のおばあちゃんが登場。

「今日は孫の誕生日。一緒にご飯を食べませんか?」

日本から持参していた女性用手ぬぐいを持って、お宅を訪問。
6歳くらいと15歳くらいの女の子に手渡すと、おばあちゃんは嬉しそうに微笑み、
“どうぞどうぞ”と食卓へ案内してくれました。

床に座り、右手で食べた手作りのビリヤニは、どのレストランよりも美味しかった。
文化も言葉も違う中で、「ご飯を一緒に食べる」ことが、
こんなにも人と人をつなげてくれることを実感しました。

 

 

????RestBarで歓迎会。そして、整形外科医としての日常が始まる

「おいHiro、RestBar行くぞ」
「RestBarって何?」
「Restaurant & Barだ。いいからバイク乗れ!」

ノーヘルメットでの二人乗りも、すっかり慣れてきました。
その夜は、Gopi先生とMahi先生が歓迎ディナーを開いてくれました。

店では、インドの大学生がよく飲むという**Old Monk(ウイスキー)+Thums Up(コーラ)**を片手に乾杯。


「これはノスタルジックドリンクなんだ」と彼らは笑いながら語ります。

文化に触れ、人に受け入れられ、少しずつ“自分の居場所”ができていく感覚。
心が温まる夜でした。

もちろん食事は手で。
「右手一本でここまで美しく食べられるのか…」
Mahi先生の所作に感嘆しながら、自分も少しずつ手で食べることに慣れてきました。

その夜、Mahi先生が静かに言います。

「感染出たから、明日デブリしてVACするぞ。帰りは23時な」

いよいよ、整形外科医としての“通常運転”が始まります。

 

 

????次回予告:インド整形外科のリアルな日常へ!

右手で食べるビリヤニ、夜中の外来、そしてチャイでつながる仲間たち。

“普通じゃない日常”を、どうぞお楽しみに!

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