佐賀大学発!世界初の「抗菌脊椎ケージ(Ag-HA)」が拓く脊椎外科の未来

佐賀大学医学部附属病院 塚本正紹

【はじめに】 脊椎外科の分野では、高齢化社会の進展に伴い手術件数が増加していますが、同時に解決すべき大きな課題が残されています。それが「術後感染」と「偽関節(骨が癒合しないこと)」です。

今回は、これらの課題を同時に解決するために佐賀大学が開発し、世界で初めて臨床応用された「Ag-HAコーティング脊椎ケージ」について、基礎研究から臨床応用への道のりと最新の知見をご紹介します。

Ag-HAコーティング脊椎ケージ

1. なぜ「Ag(銀)」と「HA(ハイドロキシアパタイト)」なのか?

脊椎固定術において、インプラントへの細菌付着による感染は、患者さんのQOLを著しく低下させ、再手術を招きます。特に免疫機能が低下した高齢者ではそのリスクが高まります。

佐賀大学が開発したAg-HAコーティングは、「抗菌性」と「骨伝導性」という2つの機能を融合させた、まさに「多機能インプラント」の成功例です。

  • Ag(銀)の役割: 銀イオンが持つ広範な抗菌スペクトルにより、細菌の繁殖やバイオフィルム(細菌の膜)の形成を抑制します。
  • HA(ハイドロキシアパタイト)の役割: 骨の主成分であるHAが、インプラントと患者さんの骨との直接的な結合(オッセオインテグレーション)を強力に促進します。

2. 基礎研究:ラットモデルでの安全性と有効性の証明

新しい医療機器が臨床で使われるようになるまでには、地道な基礎研究が不可欠です。私たちは、技術的に困難とされていたラットを用いた腰椎前方椎体間固定術(ALIF)モデルを確立し、詳細な評価を行いました。

  • 高い骨伝導性: 組織学的評価において、チタン単体と比較して有意に高い骨接触率が確認されました。
  • 神経への安全性: 脊髄への銀の蓄積や、運動・感覚機能への悪影響(神経毒性)は一切認められず、高い生体適合性が証明されました。

3. 臨床応用とその成果:製品名「Resitage™」

基礎研究での良好な結果を受け、この技術は2020年に脊椎椎体間ケージとして製品化(Resitage™ , 京セラ株式会社)され、臨床使用が開始されました。現在までに、以下の良好な成績が得られています。

【臨床成績のハイライト(術後1‐2年)】

  • 高い骨癒合率: 術後1年で89%、術後2年で94%という高い骨癒合率を達成しました。これは一般的な固定術と比較しても非常に良好な成績です。
  • 安全性: 過去の研究から血中の銀濃度は中毒域をはるかに下回っていることが考えられ、実際、銀皮症(皮膚の変色)などの全身性副作用は確認されていません。
  • 抗菌性: 術後感染を0にはできていませんが、従来のケージと比べて感染率が有意に低下し、術後感染が発生した症例においても、インプラントを抜去することなく、洗浄と抗生物質投与のみで全例感染を鎮静化できました。
Ag-HAケージ使用
(n = 194)
従来のケージを使用
(n = 211)
P value
術後感染3 (1.5%)13 (6.2%)0.021
ケージ抜去0 (0.0%)4 (1.9%)n.s.

 

4. 学生・研修医の皆さんへ:これからの展望

Ag-HAケージは、脊椎外科における「感染予防」と「骨癒合促進」という重要課題に対する革新的なソリューションです。現在は、そのエビデンスレベルをさらに高めるため、大規模多施設研究や感染性疾患に対する新たな可能性に向けた研究が進められています。

「臨床現場の疑問(クリニカル・クエスチョン)を基礎研究で解明し、再び臨床へ還元する」。このAg-HAケージの開発プロセスは、まさにトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)の実践です。佐賀大学整形外科では、このような新しい医療機器の開発や臨床研究に情熱を持って取り組んでいます。脊椎外科の未来を一緒に切り拓いていく若い力を、私たちはいつでも歓迎しています。

目次