現場には診察室では得られない「宝物」がたくさん!

医療法人尽心会 百武整形外科・スポーツクリニック 西古亨太

【はじめに】

 少年時代、サッカーボールを追いかけ、とにかく外で遊ぶことが大好きだった私は、現在、医師として、そして一人のスポーツ愛好家として、スタジアムやアリーナの熱気の中に身を置いて仕事をしています。

 現在、私は佐賀市内の医療法人尽心会百武整形外科・スポーツクリニックのCOO(最高執行責任者)として法人運営や、一人の整形外科医として診療を行う傍ら、Jリーグ「サガン鳥栖」、Bリーグ「佐賀バルーナーズ」、リーグH「トヨタ紡織九州レッドトルネードSAGA」という3つのプロチームでチーフドクターを務めています。また、佐賀県および九州サッカー協会の医学委員会でも役職を拝命し、まさにスポーツ漬けの日々を送っています。

【チームにおけるドクターの役割】

 スポーツドクターの仕事というと、華やかな世界を想像されるかもしれません。しかし、現場でのドクターはあくまでチームという「勝利を目指す組織」の歯車の一つに過ぎません。そこで最も求められるものは、なんといっても「コミュニケーション能力」です。

 診察室では患者さんと対峙すれば済みますが、現場では選手だけでなく、監督・コーチ、トレーナー、通訳やチームスタッフ、時には運営会社や行政の方々とも密に連携を取る必要があります。

 また、単なる「整形外科医」としてではなく、選手やスタッフの健康すべてを守る、いつでも相談可能な「ホームドクター」でなければなりません。脳震盪や熱中症、内科疾患や皮膚トラブル、時にはメンタルヘルスに至るまで、メディカルに関するあらゆる初期対応が求められます。

 現場では怪我が起きることも頻繁ですので、即時対応はもちろん、予防医学の観点から「ケガをしない体作り」を啓発することや、常に団体行動をするチーム内での感染症対策、アンチ・ドーピングコントロールなども重要な任務です。

【プロフェッショナルとしての覚悟と喜び】

 もちろん、プロの現場は結果が求められる世界であり、非常にシビアな面もあります。選手やスタッフはそれぞれの人生や生活をかけて戦っており、私たちにも最新・最善の治療選択や、迅速かつ的確な判断が求められます。時には「未来ある子供たち」と「結果がすべてのプロ」とで、診療においてもダブルスタンダードが必要になる場面もあり、明確な答えのない世界で悩むこともあります。

 しかし、それらを補って余りある経験や感動が現場にはあります。

 怪我に苦しんだ選手がピッチに戻り、勝利を掴んだ瞬間は涙がでるほど嬉しいですし、チームの遠征に帯同して時には海外を訪れたり、オフシーズンのキャンプや懇親会に参加したりすることも、もちろん楽しみの一つです。そして何より、プロ選手への対応だけでなく、その経験や知識を活かして、日常の診療でもスポーツを楽しむ子供たちやスポーツ愛好家の方々の力になれることは、私自身にとってもかけがえのない喜びです。

 遠征やキャンプの空いた時間に、現地の名所をランニングしながら感じる太陽や風は、現場に帯同した人にしか味わえない特権でもあります。

【感謝を胸に、次世代へ】

 こうした活動ができるのは、私の不在中に病院を守ってくれるスタッフ、そして土日も不在がちな私を支えてくれる家族の理解があってこそです。時には北海道への日帰り遠征を余儀なくされるなど体力勝負の側面も多々ありますが、それを支えてくれる周囲への感謝は常に忘れてはならないと感じています。

 若い先生方、そして学生の皆さん。スポーツ現場には、診察室だけでは得られない「宝物」がたくさんあります。最近はエコーなどの機器も益々進化し、現場での診断能力も飛躍的に向上していますが、何より大切なのは「コミュニケーション能力と、それぞれの立場に寄り添える想像力」です。

 現場での活動を通じて、全国に志を同じくするドクターやトレーナーの仲間もたくさんできました。これも私の一生の「宝物」です。

 体力はいります。覚悟もいります。ですが、診察室に閉じこもっていては絶対に見られない景色が、そこには広がっています。スポーツ医学に興味がある皆さん、ぜひ現場へ飛び出しましょう。

(2019/8/23 フェルナンド・トーレス選手引退試合にて)

(クラブハウスでの診察)

医療法人尽心会 百武整形外科・スポーツクリニック COO(最高執行責任者)

Jリーグ:サガン鳥栖、Bリーグ:佐賀バルーナーズ、リーグH:トヨタ紡織九州レッドトルネードSAGA チーフドクター

佐賀県サッカー協会:常務理事(メディカル統括) 九州サッカー協会:医学委員長(2026.4~)

西古亨太(ニシフルキョウタ)

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