当科では近年、**反転型人工肩関節置換術(Reverse Shoulder Arthroplasty:RSA)**に積極的に取り組んでいます。
RSAは2014年に日本で本格導入されて以降、この約10年で適応・手技ともに大きく進歩し、肩関節外科における中心的治療の一つとなっています。
実際、日本における人工肩関節手術数は年々増加しており、2014年の約1,200例から2023年には約6,200例へと約5倍に増加しています。そのうち約90%がリバースショルダーであり、本手術の重要性は今後さらに高まっていくと考えられます。
■反転型人工肩関節とは?
通常の肩関節は「肩甲骨側が受け皿、上腕骨側がボール」という構造ですが、RSAではこれを反転させ、肩甲骨側にボール、上腕骨側に受け皿を設置します。
この構造変更により、腱板が機能しない症例であっても、三角筋を主動力として腕の挙上が可能となる点が最大の特徴です。
従来は保存困難であった重度腱板障害に対しても、機能改善が期待できる手術となっています。


■適応となる疾患
当科では主に以下のような症例に対してRSAを行っています。
- 腱板断裂性関節症(cuff tear arthropathy)
- 広範囲腱板断裂で修復困難な症例
- 高齢者の複雑な上腕骨近位端骨折
- 再手術例(人工関節のゆるみ、再断裂など)
特に、「痛み」と「挙上不能(pseudoparalysis)」を呈する症例では、RSAは機能再建において大きな役割を果たします。
実臨床では、**「この患者さんはもう上がらないのではないか」**と思われるような症例でも、術後に自力挙上が可能となるケースがあり、肩関節外科の醍醐味の一つとなっています。
■当科での最近の取り組み
当科では現在、RSAにおける「インプラント設置精度の向上」に重点を置いて取り組んでいます。
股関節や膝関節領域では手術支援ロボットの導入が進んでいますが、肩関節領域では日本ではまだロボット支援手術は一般的とは言えません。そのため現時点では、術者の経験と術前計画の精度が手術成績を大きく左右します。
その中で当科では、「CTベースのナビゲーションシステム」を活用し、グレノイドコンポーネントの設置精度向上に取り組んでいます。
グレノイドの設置角度や位置は、インプラントの長期成績や合併症(ゆるみ、スカプラノッチングなど)に影響する重要な因子です。そのため、術前CTによる三次元評価とナビゲーションを組み合わせることで、より再現性の高い手術を目指しています。
症例に応じてナビゲーションを併用し、**「経験に依存しすぎない安定した手術精度」**の確立に取り組んでいる点が当科の特徴です。



■若手医師にとっての魅力
RSAは単なる人工関節手術ではなく、術前計画・解剖理解・インプラント設計・術中判断のすべてが統合される手術です。
そのため当科では、若手医師も段階的に手術に関わりながら、
「なぜこの角度なのか」「なぜこの症例ではこの設置が良いのか」といった思考プロセスを重視した教育を行っています。
肩関節外科は、画像・力学・臨床成績が密接に結びつく領域であり、臨床と研究の両方を実感できる分野でもあります。


