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人工関節学講座

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「人工関節学講座」設置のあらまし

佐賀大学医学部整形外科講座は、佛淵孝夫名誉教授(前佐賀大学長)の下で、全国有数の人工関節手術症例を有する施設となり、その豊富な症例数を背景に人工関節に関する研究を行なって参りました。そのような中、人工関節に関する更なる研究や教育を行う事を目的に、京セラ株式会社(当時日本メディカルマテリアル社)の出資により、平成17年1月にわが国の整形外科としては初の人工関節に関する寄付講座として“人工関節学講座”が、この分野のさきがけとして開設されました。

寄付講座とは、法人あるいは個人の寄付により大学で研究や教育などを行うことを目的に設置される講座で、寄付はいったん大学に納められ、そこから人件費を含めた研究費などが支払われます。寄付講座の名称は寄付した法人あるいは個人の名前を付けても構いませんが、本講座は次世代型人工関節の開発と研究(「和式の生活に対応できる人工関節の開発」、「抗菌仕様人工関節の開発」)を目的に開設されており、人工関節学講座と命名されていました。開設期間は3年間でありましたが、現在まで3年間ごとの期間更新が認められ継続しております。講座のスタッフは准教授1名、助教2名で、研究はもちろんのこと、整形外科医として佐賀大学医学部附属病院での診療・手術も行なっております。開設時に、現佐賀大学整形外科教授の馬渡正明先生が准教授に就任され、人工関節学講座の活動は軌道にのり、現在でも次世代型人工関節の開発と研究を大きな研究テーマとし、「和式の生活に対応できる人工関節の開発」と「抗菌仕様人工関節の開発」の2つの研究を着実に進めております。この間スタッフは伊藤純准教授、廣川俊二教授と整形外科学講座からの助教で構成され、現在は4代目の井手衆哉准教授(膝関節)と河野俊介講師(股関節)で診療・研究・教育を行なっております。また、国内外からの留学生も積極的に受け入れており、中国・北京の中国共和医科大学より王助教をはじめとする複数の医師が来佐され、現在は帝京大学から茂木助教を受け入れております。

人工関節学講座は佐賀大学医学部整形外科の寄附講座として、今後も次世代型人工関節の開発を主眼において、国内や近隣アジア諸国からの研修を受け入れ、国内のみでなくアジアにおける人工関節のセンターを目指して参ります。その為には単に手術件数だけでなく、より高性能の人工関節の開発、より患者さんに優しい診療システムを目指したいと考えています。そしてその成果が国内はもとより海外でも役に立てば幸いです。

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研究テーマ1「和式の生活に対応できる人工関節の開発」

本研究では佐賀大学医学部看護学科と協力し、人工関節手術後の患者さんへのアンケート調査を行いました。和式生活では床上での動作が必要となり、人工股関節では脱臼の危惧があり、人工膝関節では正座の希望があることがわかりました。そこで、佐賀大学工学部、九州大学大学院工学研究院、九州大学応用力学研究所、札幌医科大学解剖学教室と連携し、「可動域を拡大した新しいデザインのカップの開発」と「完全屈曲型人工膝関節インプラントの開発」を共同で行なっています。

「可動域を拡大した新しいデザインのカップの開発」
和式トイレや正座でのお辞儀などの生活動作などに必要な可動域計測を行い、この可動域を獲得できるよう、カップのデザインを行なっていきました。本研究ではツインリップライナー(図1)という可動域・耐脱臼性を高めた新しいデザインのカップを開発し(図1)、一定の成果をあげています。

「完全屈曲型人工膝関節インプラントの開発」
日本人をはじめとしたアジアやイスラム圏では、正座の習慣があり、人工膝関節置換術後も正座に対するニーズが高くなっています。しかし、現状のインプラントでは正座が可能な症例は存在するものの、正座が可能なほどの完全屈曲を許容したデザインとはなっておりません。そこで、安全性、耐久性を高める研究を行いながら様々な試作デザイン(図2)を経て、後方安定型人工膝関節に、これまでの10年の研究成果が組み込まれ、完全屈曲を許容した新しいデザインの人工膝関節が誕生する予定です。

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研究テーマ2「抗菌仕様人工関節の開発」

人工関節置換術後の感染は難治性で、機能予後からも重篤な合併症です。我々は従来より抗菌剤として用いられていた無機系抗菌剤である銀に着目して、抗菌効果を有した人工関節の開発を目指してきました。銀は抗菌スペクトルが広く、十分な抗菌性を有し、材料として安定しており、耐性菌が発生しにくく、比較的低い細胞毒性といった特徴を有しております。しかし、銀のみでは骨固着が期待できず、銀含有ハイドロキシアパタイトを作成して抗菌性、骨固着性、安全性の評価を行って参りました。in vitro、in vivo、臨床治験にて銀含有ハイドロキシアパタイトコーティング人工股関節の抗菌性、骨固着性、安全性が確認され、世界初のセメントレス抗菌人工股関節 AG-PROTEX(図3)が、2016年4月 京セラより市販化されています。本インプラントは今後人工股関節置換術後感染に対する福音となると期待されます。

図1 ツインリップライナー

図2 完全屈曲型人工膝関節の試作品

図3 抗菌仕様人工股関節

2~3%の銀含有ハイドロキシアパタイトを2700℃のフレーム溶射法にて、セメントレス人工股関節表面にfull-coatingしたセメントレス抗菌人工股関節。