股関節だより第9号をお送り申し上げます。前回の第8号は何名かの皆様から「手抜き?」との厳しいご意見をいただき、今回はスタッフ一同、少し頑張ってみました。
最近の話題などについて「症例数」をキーワードに述べてみます。
病院選びは「症例数」を目安に -厚生労働省の新しい方針-
既にテレビや新聞などでご存知の方も多いと思いますが、厚生労働省は本年4月から、規制緩和の一環として医療機関が新聞やチラシで自分の病院が手がけた手術件数などの「症例数」を広告してよいことになりました。さらに「症例数」の少ない病院では保険点数が減らされる。つまり診療報酬(病院の収入)が減額されることになりました。何故でしょう?
それは「症例数」が多いと治療成績が良いという研究結果から出てきた考え方です。欧米では1970年代から研究が進められ、心臓や癌の手術では「症例数」の多い病院の成績が優れていることが証明されています。さらに整形外科分野では人工関節手術(股関節と膝関節)の成績について同じように結果が出されています。
つまり、「症例数」の多い病院では医師の技術のみでなく、看護師らの術後管理の経験が豊富なため、事故が少なく治療成績も向上し、患者さんの回復が早くなり、入院日数も短くなります。これに比べ、「症例数」の少ない病院では医師や看護師の経験が少ないため、手術中や術後に問題が起こることが多く、その結果患者さんの入院期間が長くなる傾向があります。厚生労働省によれば、「患者さんの安全のために、あまりにも件数が少ない医療機関には遠慮していただきたいという意図です。」とのことです。したがって、「症例数」の少ない病院では手術料が30%削減されることになりました。これは日本の医療界では極めて画期的なことです。
ところで、人工関節手術の手術料が削減されないために必要な手術件数は股関節と膝関節を合わせて年間50件以上となりました。ちなみに佐賀医科大学では平成13年の1年間で375件(股関節269件、膝関節106件)でした。この数字は日本の大学病院ではおそらくダントツのトップクラスでしょう。手術が難しい患者さんも多い中、これまで取り返しのつかないような大きな事故がないことは幸いであると感謝しています。
それは「症例数」が多いと治療成績が良いという研究結果から出てきた考え方です。欧米では1970年代から研究が進められ、心臓や癌の手術では「症例数」の多い病院の成績が優れていることが証明されています。さらに整形外科分野では人工関節手術(股関節と膝関節)の成績について同じように結果が出されています。
つまり、「症例数」の多い病院では医師の技術のみでなく、看護師らの術後管理の経験が豊富なため、事故が少なく治療成績も向上し、患者さんの回復が早くなり、入院日数も短くなります。これに比べ、「症例数」の少ない病院では医師や看護師の経験が少ないため、手術中や術後に問題が起こることが多く、その結果患者さんの入院期間が長くなる傾向があります。厚生労働省によれば、「患者さんの安全のために、あまりにも件数が少ない医療機関には遠慮していただきたいという意図です。」とのことです。したがって、「症例数」の少ない病院では手術料が30%削減されることになりました。これは日本の医療界では極めて画期的なことです。
ところで、人工関節手術の手術料が削減されないために必要な手術件数は股関節と膝関節を合わせて年間50件以上となりました。ちなみに佐賀医科大学では平成13年の1年間で375件(股関節269件、膝関節106件)でした。この数字は日本の大学病院ではおそらくダントツのトップクラスでしょう。手術が難しい患者さんも多い中、これまで取り返しのつかないような大きな事故がないことは幸いであると感謝しています。
続けて「インフォームド・コンセント」について
前段で「症例数」と治療成績についてお話しましたが、これと関連してインフォームド・コンセント(日本語で「説明と理解」)について述べてみます。(少し詳しくお知りになりたい方は次のページの「インフォームド・コンセント(IC)について」を参考にしてください。)
一般に「手術に対するインフォームド・コンセント」としては以下の説明が必要とされています。(もちろんこれで十分というわけでもなく、また場合によっては本人に正しい病名を告げないことなどもあります。)
(1)患者さんの病名と病状
(2)予定される手術の術式と目的
(3)手術により期待される効果と危険性や起こりうる合併症(麻酔や輸血などを含む)
(4)手術以外に考えられる処置や治療法
(5)手術を行わなかったときに考えられる病状経過それぞれについて少し詳しく述べてみることにします。
(1)患者さんの病名と病状癌などの悪性の病気はほとんどありませんから、ご本人にもご家族にも正しい病名をお話しています。主な病名は変形性股関節症、股関節臼蓋形成不全、大腿骨頭壊死などです。原因は不明なものも少なくありません。大半の方が次第にあるいは急激に進行します。症状の主なものは股関節の痛み、跛行(はこう:びっこのこと)、股関節の動きが悪くなる、足の長さ(下肢長)が短くなる、腰や膝に負担がかかるなどです。
(2)予定される手術の術式と目的手術の方法(術式)は自分の骨を使った骨切り術と人工関節に大きく分けられます。原則として、前者は主に若い方で病状があまり進んでいない方に、後者は比較的高齢で病状が進行した方にお勧めしています。骨切り術の目的は主に病状の進行防止です。人工関節手術の目的は、前述の症状の改善です。つまり、痛みが取れ、歩き方が良くなり、股関節の動きが良くなり、足の長さが同じになり、あるいは腰や膝の負担が取れることです。
(3)手術により期待される効果と危険性や起こりうる合併症(麻酔や輸血などを含む)ここからは先ほどの「症例数」が問題となってきます。「手術により期待される効果」は治療成績のことです。つまり成功率は何%かという話になります。欧米では手術の説明に対して患者さんから必ず、「この病院の手術成功率は?先生自身の成功率は?」との質問があります。もっともその前に、これらの情報は公開されています。ただし、この「成功率」に関しても様々な問題があり、少しずつ解説していきたいと考えています。手術の危険性や合併症については「症例数」が多くないと信頼性がありません。通常100例に1例起こるような合併症ですら、10例しかやってないと「1例もありません。」と言われても即座には信用するわけには行きません。より安全な手術を期待するなら、やはり「症例数」の多い病院を選ぶことになります。
(4)手術以外に考えられる処置や治療法これまで述べてきた股関節疾患の多くは、当初は手術以外の処置や治療法が選択されます。その目的は症状の緩和、つまり薬や温熱療法などで痛みを取ったり、筋力をつけて機能障害を少なくしたり、場合によっては進行を遅らせたりする効果があります。しかしながら、多くの場合、病状の進行を確実に遅らせたり、進行した病状を著明に改善させたりすることが難しいのが現状です。
(5)手術を行わなかったときに考えられる病状経過多くの股関節疾患がこれまでも述べてきたように、直接生命にかかわることはありません。したがって、手術を行わなくても生命に別状ないことは事実です。しかしながら、大部分の股関節疾患が何らかのかたちで進行していきます。これを自然経過と呼んでいますが、たとえば同じ変形性股関節症であってもこの自然経過については実は個人差があります。その要因としては、年齢、性別、職業(活動量)、筋力、関節の柔らかさ、X線学的所見(屋根のかぶり、脱臼の程度、骨の硬さなど)、腰や膝の問題、下肢長差などがあり、これらを総合的に判断しなければなりません。一人ひとり進行の仕方が違うことは、多くの手術を受けていない「症例数」からの経験がないとなかなかわかりません。最後に、多くの手術を受けていない「症例数」から得た経験をもとに、手術の必要性や、その時期についてお話しているつもりです。しかしながら、自分の骨で出来る手術、つまり骨切り術の時期を逸することのないようにお話できるようになることは専門の医師としては重要ですが、とても難しいことです。と言いますのは、「安全で確実性の高い手術」が出来なければ、患者さんにお勧め出来ないからです。インフォームド・コンセントのもっとも大事な点は「患者さんが十分な説明を受け、それを理解した上で患者さん自身が判断すること」です。したがって、医療者側の責任逃れの「脅しコンセント」ではなく、患者さんが自分自身にとって最も良い治療が選択できる「元気の出るインフォームド・コンセント(旧厚生省)」でなければなりません。
一般に「手術に対するインフォームド・コンセント」としては以下の説明が必要とされています。(もちろんこれで十分というわけでもなく、また場合によっては本人に正しい病名を告げないことなどもあります。)
(1)患者さんの病名と病状
(2)予定される手術の術式と目的
(3)手術により期待される効果と危険性や起こりうる合併症(麻酔や輸血などを含む)
(4)手術以外に考えられる処置や治療法
(5)手術を行わなかったときに考えられる病状経過それぞれについて少し詳しく述べてみることにします。
(1)患者さんの病名と病状癌などの悪性の病気はほとんどありませんから、ご本人にもご家族にも正しい病名をお話しています。主な病名は変形性股関節症、股関節臼蓋形成不全、大腿骨頭壊死などです。原因は不明なものも少なくありません。大半の方が次第にあるいは急激に進行します。症状の主なものは股関節の痛み、跛行(はこう:びっこのこと)、股関節の動きが悪くなる、足の長さ(下肢長)が短くなる、腰や膝に負担がかかるなどです。
(2)予定される手術の術式と目的手術の方法(術式)は自分の骨を使った骨切り術と人工関節に大きく分けられます。原則として、前者は主に若い方で病状があまり進んでいない方に、後者は比較的高齢で病状が進行した方にお勧めしています。骨切り術の目的は主に病状の進行防止です。人工関節手術の目的は、前述の症状の改善です。つまり、痛みが取れ、歩き方が良くなり、股関節の動きが良くなり、足の長さが同じになり、あるいは腰や膝の負担が取れることです。
(3)手術により期待される効果と危険性や起こりうる合併症(麻酔や輸血などを含む)ここからは先ほどの「症例数」が問題となってきます。「手術により期待される効果」は治療成績のことです。つまり成功率は何%かという話になります。欧米では手術の説明に対して患者さんから必ず、「この病院の手術成功率は?先生自身の成功率は?」との質問があります。もっともその前に、これらの情報は公開されています。ただし、この「成功率」に関しても様々な問題があり、少しずつ解説していきたいと考えています。手術の危険性や合併症については「症例数」が多くないと信頼性がありません。通常100例に1例起こるような合併症ですら、10例しかやってないと「1例もありません。」と言われても即座には信用するわけには行きません。より安全な手術を期待するなら、やはり「症例数」の多い病院を選ぶことになります。
(4)手術以外に考えられる処置や治療法これまで述べてきた股関節疾患の多くは、当初は手術以外の処置や治療法が選択されます。その目的は症状の緩和、つまり薬や温熱療法などで痛みを取ったり、筋力をつけて機能障害を少なくしたり、場合によっては進行を遅らせたりする効果があります。しかしながら、多くの場合、病状の進行を確実に遅らせたり、進行した病状を著明に改善させたりすることが難しいのが現状です。
(5)手術を行わなかったときに考えられる病状経過多くの股関節疾患がこれまでも述べてきたように、直接生命にかかわることはありません。したがって、手術を行わなくても生命に別状ないことは事実です。しかしながら、大部分の股関節疾患が何らかのかたちで進行していきます。これを自然経過と呼んでいますが、たとえば同じ変形性股関節症であってもこの自然経過については実は個人差があります。その要因としては、年齢、性別、職業(活動量)、筋力、関節の柔らかさ、X線学的所見(屋根のかぶり、脱臼の程度、骨の硬さなど)、腰や膝の問題、下肢長差などがあり、これらを総合的に判断しなければなりません。一人ひとり進行の仕方が違うことは、多くの手術を受けていない「症例数」からの経験がないとなかなかわかりません。最後に、多くの手術を受けていない「症例数」から得た経験をもとに、手術の必要性や、その時期についてお話しているつもりです。しかしながら、自分の骨で出来る手術、つまり骨切り術の時期を逸することのないようにお話できるようになることは専門の医師としては重要ですが、とても難しいことです。と言いますのは、「安全で確実性の高い手術」が出来なければ、患者さんにお勧め出来ないからです。インフォームド・コンセントのもっとも大事な点は「患者さんが十分な説明を受け、それを理解した上で患者さん自身が判断すること」です。したがって、医療者側の責任逃れの「脅しコンセント」ではなく、患者さんが自分自身にとって最も良い治療が選択できる「元気の出るインフォームド・コンセント(旧厚生省)」でなければなりません。