佐賀大学医学部整形外科(人工関節学講座) 助教授馬渡正明
早いもので整形外科医となって年が経過し、そして股関節外科を専門とした現在まで1000例を超える股関節手術を執刀してきました。九大を辞したあとしばらく民間の病院で勤務していたので一般整形外科手術も行っていましたが、平成17年1月より勤務している佐賀大学整形外科は股関節にほぼ特化した教室であり、自分の大学での手術は100%股関節手術となりました。毎週平均800例の股関節手術を佛淵教授と二人で行っています(年間例ペース)が、これは圧倒的に日本一の症例数で、このペースであれば数年でさらに1000例の執刀をすることになると思います。手術の内容は人工関節置換術が最も多いのですが、さまざまな再置換術や、もちろん骨切り術も行っています。佛淵教授の診察を受けるために患者さんはほぼ全国からお見えになっていて、実に多種多様の方々が来院されます。医療機関からの紹介もありますが、今や全国にいる患者さんからの口コミが一番多いようです。インターネット(佐賀大学整形外科のホームページhtp://seikei.saga-u.ac.jp)や新聞雑誌をみてというのもあります。そんな患者さんたちを診察し、お話を伺うにつけ、いろいろな思いをめぐらせています。人工関節は今や一般化した手術で全国的に見ても年間100例以上手がける先生もおられます。しかし骨切り術に関してはかなりの熟練を要する手技であるため、一般的に行われているわけではありません。自分の関節を温存することを第一に考えなければならないのに安易に人工関節を勧められているケースが多々あります。骨切り術は手術の時期が重要であるため、そのタイミングを逃すと人工関節しかないということになり敗北の治療となってしまいます。これは医師側の問題で、仮に自分が骨切り術をしないというだけで、セカンドオピニオンを求めないことにあると思います。骨切り術の可能性を放棄しないことです。
骨切り術が選択されたとして問題がまたあります。実はこちらのほうがより深刻な問題です。前述したように骨切り術は相当の熟練を要する手技で、何回か見たことがある、本で読んだ、とかでできるようなものではありません。それなのにできると過信したのか、骨切り術後の悲惨な症例を見るにつけ、暗澹たる気持ちになります。不慣れなために長時間に及ぶ手術のあげく、細菌感染症を併発し、車椅子でこられる方もいます。まだ初期の関節症だったのに下手な骨切り術のために早期に人工関節へと
余儀なくされた例など枚挙に暇がありません。骨切り術こそは専門化したセンターでなされるべきだと思います。少なくとも術者の手術症例数が明らかにされているようなところで手術は受けるべきだと思います。
特殊な症例の場合はともかく(佛淵教授の方針は“患者さんの最後の砦となる”で、滅多に断らない)、比較的容易な場合でもどうしてこんな不便な佐賀までわざわざ・・・という思いがあります。ひとえに佛淵教授の名声といってしまえばそうですが(現在の教授の手術予約はヶ月待ち!ちなみに私の予約はヶ月半待ち)、それぞれの地域における医師患者間の信頼関係の問題もあります。医者の説明に納得できない、いろんなリスクばかり話して自信無さげだ、どうするべきか明確な答えが得られない、などさまざまなことを患者さんからいわれます。自己血貯血まで準備したのにキャンセルして関東からこられた人もいます。良好な信頼関係を築くためには医師側はもっと説明し、そして話を聞く必要があると思います。そして当たり前のことですが、しっかりした技術的裏付けを身につけることが肝要です。
最後に手術について思うことですが、誰がしても100%の手術の成功を保証することはできません。
本来手術には危険が伴いますし、さまざまな合併症をおこす可能性があります。なかでも最近話題の肺血栓症の場合、発生率は低いものの一旦発症すれば亡くなる方もありますし、極めて重篤な合併症といえます。できる限りの予防をしてもゼロにすることはできません。そのための対策は、その発症が疑われれば直ちに精査し、治療が始められるシステムを作ることだと思います。院内の呼吸器科、循環器内科などの連携を強固とし協力体制を構築し緊急時のマニュアルを作成し運用することです。肺血栓症のみならず、心筋梗塞、脳梗塞などの疾患が術後発症することもまれではありません。そういった場合でもすぐに対応できるような施設で手術は行われるべきだと思います。術前の患者さんにはこういったこともしっかり説明し同意をいただいています。術前の全身検査による評価、安全な麻酔、正確で手早い手術、注意深い術後の管理、そして合併症発生時に対するしっかりとした対策などが一連となって、より安全で効率的な治療がなされるものと思います。
このような取り組みを継続し、問題点があれば改善改良し、患者さんに信頼されることがなによりも大切と考えます。
早いもので整形外科医となって年が経過し、そして股関節外科を専門とした現在まで1000例を超える股関節手術を執刀してきました。九大を辞したあとしばらく民間の病院で勤務していたので一般整形外科手術も行っていましたが、平成17年1月より勤務している佐賀大学整形外科は股関節にほぼ特化した教室であり、自分の大学での手術は100%股関節手術となりました。毎週平均800例の股関節手術を佛淵教授と二人で行っています(年間例ペース)が、これは圧倒的に日本一の症例数で、このペースであれば数年でさらに1000例の執刀をすることになると思います。手術の内容は人工関節置換術が最も多いのですが、さまざまな再置換術や、もちろん骨切り術も行っています。佛淵教授の診察を受けるために患者さんはほぼ全国からお見えになっていて、実に多種多様の方々が来院されます。医療機関からの紹介もありますが、今や全国にいる患者さんからの口コミが一番多いようです。インターネット(佐賀大学整形外科のホームページhtp://seikei.saga-u.ac.jp)や新聞雑誌をみてというのもあります。そんな患者さんたちを診察し、お話を伺うにつけ、いろいろな思いをめぐらせています。人工関節は今や一般化した手術で全国的に見ても年間100例以上手がける先生もおられます。しかし骨切り術に関してはかなりの熟練を要する手技であるため、一般的に行われているわけではありません。自分の関節を温存することを第一に考えなければならないのに安易に人工関節を勧められているケースが多々あります。骨切り術は手術の時期が重要であるため、そのタイミングを逃すと人工関節しかないということになり敗北の治療となってしまいます。これは医師側の問題で、仮に自分が骨切り術をしないというだけで、セカンドオピニオンを求めないことにあると思います。骨切り術の可能性を放棄しないことです。
骨切り術が選択されたとして問題がまたあります。実はこちらのほうがより深刻な問題です。前述したように骨切り術は相当の熟練を要する手技で、何回か見たことがある、本で読んだ、とかでできるようなものではありません。それなのにできると過信したのか、骨切り術後の悲惨な症例を見るにつけ、暗澹たる気持ちになります。不慣れなために長時間に及ぶ手術のあげく、細菌感染症を併発し、車椅子でこられる方もいます。まだ初期の関節症だったのに下手な骨切り術のために早期に人工関節へと
余儀なくされた例など枚挙に暇がありません。骨切り術こそは専門化したセンターでなされるべきだと思います。少なくとも術者の手術症例数が明らかにされているようなところで手術は受けるべきだと思います。
特殊な症例の場合はともかく(佛淵教授の方針は“患者さんの最後の砦となる”で、滅多に断らない)、比較的容易な場合でもどうしてこんな不便な佐賀までわざわざ・・・という思いがあります。ひとえに佛淵教授の名声といってしまえばそうですが(現在の教授の手術予約はヶ月待ち!ちなみに私の予約はヶ月半待ち)、それぞれの地域における医師患者間の信頼関係の問題もあります。医者の説明に納得できない、いろんなリスクばかり話して自信無さげだ、どうするべきか明確な答えが得られない、などさまざまなことを患者さんからいわれます。自己血貯血まで準備したのにキャンセルして関東からこられた人もいます。良好な信頼関係を築くためには医師側はもっと説明し、そして話を聞く必要があると思います。そして当たり前のことですが、しっかりした技術的裏付けを身につけることが肝要です。
最後に手術について思うことですが、誰がしても100%の手術の成功を保証することはできません。
本来手術には危険が伴いますし、さまざまな合併症をおこす可能性があります。なかでも最近話題の肺血栓症の場合、発生率は低いものの一旦発症すれば亡くなる方もありますし、極めて重篤な合併症といえます。できる限りの予防をしてもゼロにすることはできません。そのための対策は、その発症が疑われれば直ちに精査し、治療が始められるシステムを作ることだと思います。院内の呼吸器科、循環器内科などの連携を強固とし協力体制を構築し緊急時のマニュアルを作成し運用することです。肺血栓症のみならず、心筋梗塞、脳梗塞などの疾患が術後発症することもまれではありません。そういった場合でもすぐに対応できるような施設で手術は行われるべきだと思います。術前の患者さんにはこういったこともしっかり説明し同意をいただいています。術前の全身検査による評価、安全な麻酔、正確で手早い手術、注意深い術後の管理、そして合併症発生時に対するしっかりとした対策などが一連となって、より安全で効率的な治療がなされるものと思います。
このような取り組みを継続し、問題点があれば改善改良し、患者さんに信頼されることがなによりも大切と考えます。