見学のお問合せ

2015.07.10

脊椎便り 第5号

  • ごあいさつ(講師 森本 忠嗣)
  • 「頚椎症性脊髄症」とその診療ガイドラインについて(助教 塚本 正紹)
  • お世話になりました(大学院生 吉原 智仁)
  • 体幹トレーニング(理学療法士 山本 岳史)
  • ミャンマー医療支援(森本 忠嗣)
  • 忘れられない患者さん2

内容

はじめに

講師 森本 忠嗣

2011年4月1日より佐賀大学整形外科にて、脊椎(くびや背中や腰)や脊髄の病気の診断、治療を行いはじめ4年がすぎました。馬渡教授をはじめ諸先生方、病院スタッフ、優しい患者さん達のおかげで恙無く診療に臨めています。本当に感謝です。

脊椎班のスタッフですが、2014年4月は森本、吉原の2人体制でしたが、8月より学位を取得した塚本先生が臨床復帰し3人体制となりました。それも束の間、2015年4月に吉原先生が大学院に進学し、研究生活を開始しました。お2人には早く脊椎脊髄病指導医の資格を取得して欲しいと思います。お2人の挨拶と近況報告も掲載していますのでご参照ください。

当院で脊椎手術をうけた患者様の不安を減らしたい、疑問に答えたいという思いから、<脊椎だより>を作成し、第2号では “・・・皆さまに脊椎の病気、治療方法、術前後の注意点、日常生活の注意点、最新の話題など有用な情報を提供し、今後のケアや定期検診に役立てたいと思います。”と記載しました。

第5号では、塚本先生に、改定のあった頚椎症性脊髄症のガイドラインの重要なポイントについて、山本理学療法士に腰痛予防・周術期訓練として有用な体幹筋訓練を投稿していただいていますのでお目通しいただけますと幸いです。

今年も私のミャンマーの医療支援について記載していますので楽しんでいただけましたら幸甚です。 最後に、馬渡教授のご高配により2014年8月1日付で、講師に就任しました。私の脊椎外科の恩師である菊地臣一先生(福島医大学長)より、“初心忘るべからず、技術屋に成り下がるな、常に何故ということを考えること”というお言葉をいただきました。肝に銘じて、励みたいと思います。臨床医としても研究者としても発展途上の身の上でありますが、期待に少しでも応えられるように、自らを律し、寸暇を惜しんで研鑽を積むと改めて意を強くしています。今後ともご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願いします。

<脊椎手術内訳>

2014年度(2014年4月より2015年3月まで)140例でした。腰部脊柱管狭窄症の手術が最多でしたが、大学病院ですので、頭蓋頚椎手術、成人脊柱変形手術(胸椎から骨盤までの固定)、腫瘍、化膿性脊椎炎、透析脊椎症、骨粗鬆症性骨折、の手術などが増加してきています。馬渡教授のお計らいで脊椎手術を安全に行える機械を続々と購入いただいております。また、大学病院の特徴を活かし、他科との連携を密にし、様々な合併症のある患者さんでも安全に手術が行えるように心がけています。

■転移性脊椎腫瘍に対する低侵襲脊椎固定術

がんの脊椎転移により強い背中の痛みのために体を動かすことができない患者さんに対して、背中側から脊椎(背骨)に転移したがんをできるだけ取り、ネジなどで背骨を固定します。従来は、背中を20㎝程度切り、筋肉をはがして固定用の器具をうちこんでいましたが、最近の低侵襲脊椎固定術では背中のネジを入れる部分のみの皮膚および筋肉を切り、ネジを挿入し固定します。体の負担が少ないので手術後の回復が早く、早期から動けます。

転移性脊椎腫瘍に対する低侵襲脊椎固定術

代表例)63歳男性。悪性リンパ腫の腰椎転移。腰痛のため2ヵ月間も座ることも困難な状態でした。手術後2日目より歩行可能になり、術後1年現在、徒歩にて外来通院中。

<学会・論文発表>

脊椎班として全国学会としては日本脊椎脊髄病学会に4題、日本整形外科学会総会4題、ISSLS(国際腰椎学会 今年はサンフランシスコ)3題と研究も少しずつ前進しています。

一人一人のカルテや画像を確認していると、お一人お一人を大事にする必要性を痛感しています。

今後も佐賀大学整形外科の伝統である1日3回以上回診を続けて、診察をさせていただき、寄り添う中で得られた知見をまとめていこうと思います。今後ともご協力よろしくおねがいします。

皆様の診療を通して学んだことを少しずつまとめて報告させて頂きました(教科書1編、座談会1編、和文4編、英文1編)。

頭蓋頚椎手術
  • 関節リウマチ上位頚椎の治療(今日の整形外科治療指針 第7版)
  • 佐賀県の三次救急医療機関における上位頸椎損傷患者の臨床像(JSR 投稿)
成人脊柱変形手術
  • 下肢アライメントを考慮した成人脊柱変形の治療戦略(座談会:松山幸弘(浜松医大教授)、波呂浩孝(山梨医大教授)、江幡重人(山梨医大准教授)、森本忠嗣(佐賀大学講師)Ortho Square 2014 )
骨粗鬆症性骨折
  • 【旭化成 財団支援研究】骨粗鬆症性スクリーニング検査の骨粗鬆症椎体骨折に対する診断能(Osteoporosis Japan 2015 )
  • 60歳以上の人工股関節置換術実施例における椎体骨折頻度と骨粗鬆症治療の実際(Hip Joint 投稿)
化膿性脊椎炎
  • 化膿性脊椎炎に対する経皮的病巣掻爬ドレナージ(JSR 投稿)
先天性疾患
  • Ipsilateral hip dysplasia in patients with sacral hemiagensis: A report of two cases, Case reports in orthopedics 2015

「頚椎症性脊髄症」と
その診療ガイドラインについて

助教  塚本 正紹

2014年8月より佐賀大学整形外科の脊椎グループの一員として診療にあたらせて頂いています塚本正紹と申します。

2014年7月まで佐賀大学整形外科の大学院生として、主に研究(抗菌人工関節や歩行解析の研究)を行ってまいりました。このお便りを読んでいただいている方の中には歩行解析にご協力いただいた方もたくさんいらっしゃるかと思います。この場をお借りして、お礼を申し上げます。

さて、今回私は「頚椎症性脊髄症」について、最近新たに診療ガイドラインが改定されましたので、それを交えながら少しだけお話をさせていただきたいと思います。

「頚椎症性脊髄症」については、昨年の脊椎だより第4号の中で吉原先生が詳しく解説されていましたが、少しおさらいしたいと思います。

頚椎症性脊髄症とは・・・

【原因・病態】
加齢変化による頚椎症(椎間板の膨隆・骨のとげの形成)の変化によって、頚椎の脊柱管(骨の孔)の中にある脊髄が圧迫されて症状が出る病気のことです。日本人は脊柱管の大きさが欧米人に比較して小さく、下記の「脊髄症」の症状が生じやすくなっています。
【症 状】
ボタンのはめ外し、お箸の使用、字を書くことなどが不器用になったり(手指巧緻運動障害)、歩行で脚がもつれるような感じや階段で手すりを持つようになったりという症状が出ます。手足のしびれも出てきます。
【診 断】
症状と四肢の反射の亢進などの診察所見があり、X線(レントゲン)所見で頚椎症性変化を認め、MRIで脊髄の圧迫を認めることで診断します。
【治 療】
一般的に日常生活に支障があるような手指巧緻運動障害がみられたり、階段昇降に手すりが必要となれば、手術的治療が選択されます。

ここまではよく各種のホームページなどに書かれていたりする内容です。

今回は、診療ガイドラインを交えて、と最初に述べましたので、ガイドラインの内容を少しご紹介しながら、さらに続けたいと思います。

まず「診療ガイドラインって?」というところからご説明します。

今日、ほとんどの患者様が求めている医療は、安全で確実な医療、すなわち標準的な医療です。この標準的な医療を提供するために、各疾患についてエビデンス(根拠)に基づいた「ガイドライン」が近年策定されています。主にQ&A形式で、診療上のクリニカルクエスチョンに対して過去の信頼ある論文をもと回答が作成されています。

今回は「頚椎症性脊髄症」の診療ガイドラインの一部をご紹介したいと思います。

Q1.頚椎症性脊髄症の疫学(男女比や発症年齢など)は明らかであるか?
男性の発症が女性の約2倍以上とする報告が多く、発症年齢では50歳代で発症することが多いとされています。
Q2.頚椎症性脊髄症の自然経過は進行性に悪化するか?
一定の傾向は認められませんが、症状の重い方、もともと脊柱管の狭い方、脊髄の圧迫が高い方は症状が進行する危険性があり、手術のタイミングを逃さないことが重要です。
Q3.頚椎症性脊髄症のMRIに特徴はあるか?
MRIは頚椎症性脊髄症の診断に欠かせない検査であるとされていますが、MRIだけでは脊髄圧迫の原因が椎間板の膨隆か、骨のとげの形成かなどは分からない為、レントゲンやCTなどとの併用が望ましいとされています。
Q5.各種保存療法(お薬やリハビリなど)は有効か?
頚椎牽引療法や装具療法は軽症例に対して短期的には有効であるとされていますが、薬物療法が脊髄症症状(手指巧緻運動障害や歩行障害など)に対してどの程度有効かについては十分なエビデンスはないとされています。
Q6.代替医療(鍼、灸、マッサージ、整体、カイロプラクティック)は有効か?
これらが有効であるというエビデンスはないとされています。
Q7.椎弓形成術(頚椎症性脊髄症の代表的な手術方法)の長期成績は安定しているか?
椎弓形成術の長期成績は安定しているとされています。
Q8.保存療法と手術療法の予後に差があるか?
軽度の頚椎症性脊髄症については、保存療法と手術療法の成績は3~4年の経過では差は見られませんが、重度の症例を含めると、手術例は良好に改善するのに対して、保存療法例では悪化傾向がみられるとされています。

 ちょっと最後の方は難しい話になってしまいましたが、いかがだったでしょうか。

 このような診療ガイドラインを参考にしながら、患者様にとって、最善で安全・確実な医療をお届けできるように日々研鑽を積んでいきたいと思います。


お世話になりました

大学院生 吉原 智仁

2012年4月から2015年3月末の3年間、佐賀大学整形外科の脊椎班の一員として患者さんの診察、治療を行ってきました。この3年間で沢山の患者さんに出会えたと共に多くの脊椎・脊髄疾患を経験することができました。佐賀大学での執刀手術数も約200例に達し、今後は日本脊椎脊髄病学会認定指導医の資格をとれる程になりました。

脊椎・脊髄病は安静やコルセット治療、リハビリ治療といった保存的治療で治るものもあれば手術治療が必要となる場合もあります。大学病院の症例はほとんどが保存的治療が行われてきた紹介症例で、手術治療を要する場合が多いのが現状です。病態・症状も軽度のものから重度のものもあり、中には手術治療を行った後も症状の改善が悪い患者さんもおられます。そのような場合には、できる限り手術後に定期的に外来を受診していただき、症状により投薬治療やブロック注射を行ったり、場合によっては再手術なども必要となることがありました。

術後の外来患者さんには長時間外来を待っていただくことが多く、大変ご迷惑をおかけしましたが、『外来多くて大変ですね』など逆に気遣いの言葉をかけていただくことも数多くあり大変申し訳ない気持ちと感謝の気持ちでいっぱいです。

2015年4月より当大学の分子医化学講座の大学院で研究員として日々、奮闘しております。研究分野は脊椎の黄色靭帯肥厚や骨化症に関係がある蛋白質と言われている『ぺリオスチン』についての生体学的意義についてです。4年間研究の成果を臨床に生かせればと考えています。

また大学病院の脊椎班に戻り、診療を行っていくつもりですのでまた患者さんにお会いできるのを楽しみにしております(病院に来ないことが一番いいことですが・・・)。

3年間本当にお世話になりました。


体幹トレーニング

理学療法士 山本 岳史

体幹とは?

 体幹とは頭部・両手・両足を除いた全ての部分を言います。この体幹の中でお腹の部分は、胸の部分と違い周りを骨に囲まれておらず、背骨だけでとても不安定です。この腹部を安定させる為には、①横隔膜・②腹横筋・③骨盤底筋群・④多裂筋が重要となります。

体幹を安定させることによって姿勢が良くなり、腰痛や肩こりの予防や改善にもつながります。また、歩行時の転倒予防にもつながると言われています。

体幹の安定

体幹を安定させる為には、①横隔膜・②腹横筋・③骨盤底筋群・④多裂筋により周囲を囲まれた腹腔部分に圧をかけ腹圧を高めることが大事です。上から横隔膜が、下から骨盤底筋群が、横から前にかけては腹横筋が、背中からは多裂筋が腹圧を高める役割をします。

腹圧を高めるためにはドローインが基本となります

ドローインとは訳すると「引き込む」ことを意味しお腹を内側に凹ますことを指します。仰向けに寝た状態や座位(椅子に座った状態)・立位(立った状態)など様々な状態で行うことができます。

まずは、引き込む感覚をつかむため臥位でやってみましょう。

  • ①背筋を伸ばし、肛門を締めるイメージでお尻に力を入れ、息を大きくゆっくり吸い込む。
  • ②息をゆっくり吐きながらお腹を凹ます。
  • ③お腹を凹ませた状態をまま浅い長い呼吸を行うようにし、まずは10秒間キープしてみましょう。
  • ④慣れてきたら、キープする時間を徐々に長くしていきます。

座位や立位でも同様です。

ドローインができたら 仰向け、椅子にすわって、立ってと、負荷をすこしづつ増やしてみてください。

★1stage

  • ①ドローイン
  • ②胸に膝をつけるようにゆっくりと脚を引き上げる
  • ③左右交互に10回程度行う

  • ①ドローイン
  • ②骨盤を回転させるようにお尻をあげる
  • ③お尻を上げた状態で10秒キープする
  • ④10回程度行う
★2stage

  • ①ドローイン
  • ②胸に膝をつけるように両脚同時にゆっくりと脚を引き上げる
  • ③10回程度行う

  • ①ドローイン
  • ②片脚の膝を伸ばしたままでベッドから10cm程度挙上する
  • ③左右交互に10回程度行う

ミャンマー医療支援

森本 忠嗣

2015年1月初め、三重大学の笠井裕一先生(脊椎外科教授)、筑波大学整形外科准教授の坂根正孝先生と、ミャンマー医療支援(脊椎手術および指導)に従事しました。ミャンマー人医師と再会し、今年も相変わらずの歓待をうけ、友好にもつとめてまいりました。

ミャンマーは急速に発展しているので、行くたびに建物が増え、街の様相が変わり、本当に驚かされます。

手術

マンダレー大学病院とネピドー総合病院に行き、5日間で21例の手術を行いました(手術道具、手術の固定器具などの問題でこの数が限界でした)。印象的だったことは、

1) やはり脊椎カリエスが多い:栄養事情の影響でしょうか、今年も小児カリエスが多かったです。

2) はじめて爆弾損傷による脊髄麻痺の患者さんの手術をしました。

などなど、日本では経験できないことが経験でき、私にとっても武者修行の場です。

もちろん、手術はミャンマー人スタッフに教えるものは教え、できそうなことはコツをなるべく教え、やってもらいました。会話は英語とミャンマー語と日本語のちゃんぽんです。少しミャンマー語での会話も可能になりました。

佐賀の数院の病院にご協力いただき使わなくなった手術器具を集めて寄附しました。


お礼の品を頂きました

今年は食事にかなり気をつかっていたのですが旅行者下痢症にかかり、1日10回以上の水様便に悩まされました。帰りの飛行機はトイレの側に手配してもらいました。

最後に、快く送り出して頂いた教授はじめ佐賀大学整形外科に感謝しています。


忘れられない患者さん2

飲み会では若さを過信して2次会、3次会と、はしゃいでいた若かりし日のことです。先日の飲み会の疲れが残っており、午前中は少しボーとしながら外来診療行うも、昼過ぎにはほぼ覚醒し、昼からの予定手術+急患手術を無事終了。

夜の回診をして、帰路についたのは20時すぎでした。病院の駐車場で車のエンジンをかけ、“つかれたなあ。家に帰って熱いお風呂に入ろ〜”と妄想しながら、駐車場を運転していると、“ゴン”と車の右前方部を何かにぶつけました。急いで車から降りると、若い女性が唸り声をだしながら身動きせずに倒れていました。

そうです、病院の駐車場内で患者さんをはねてしまったのです。

すぐに病院に戻り、スタッフに事情を説明し、ストレッチャー(小ベッド)を運び、女性を乗せ、救急外来へ運び、検査、処置を行いました。

#1骨盤骨折、#2橈骨骨折、#3両下腿挫傷の診断でしたが、幸い手術なしの安静(ギプス固定)で治癒が望める状態でした。患者さんの家族、警察、上司、私の妻にも連絡をし、私が警察に取り調べを受けている間に、主治医を黙って引き受けてくれた上司が患者家族へ病状の説明をしてくれていました。

私の妻と娘達が病院にやってきたのは、私が警察と一緒に現場検証をおこなっているころでした。私の姿をみた娘達の“おとうさ〜ん”と号泣する声が聞こえてきました。先日、刑務所の生活の特集がTVで放映されており、悪い事をしたら刑務所にはいるんだよと教えると、“いい子にします”と半泣き状態で娘達は答えていました。後で娘から話を聞くと、そのことを思い出し、私が刑務所に連れて行かれると想像したとのことでした。

警察の取り調べが終わり、治療が一段落したところで、患者さん、及び、家族へ、謝罪しました。罵倒されると思いきや、患者さんと患者さんのお母様「こんな時間まで働いていて先生も疲れていたんでしょ」、患者さんのお父様「手術をせんでも治るくらいの怪我なんですね。さすが、整形外科医、上手にはねてくれましたね」と労い(?)の言葉をかけてくれました。本当に申し訳ありませんでした。

以後、私はよっぽどのことが無い限り、飲み会の二次会に参加せず、万全の状態で診療・手術に望めるように常に体調管理に努めるようにしています。