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2013.06.20

股関節便り 第28号

  • 3年間を振り返って(佐賀大学医学部整形外科 教授 馬渡 正明)
  • 診療ガイドラインについて(佐賀大学医学部整形外科 准教授 園畑 素樹)
  • 人工股関節について知りたいことは何ですか(佐賀大学医学部整形外科 講師  北島 将)
  • 人工股関節のライナー摩耗の実際(佐賀大学医学部整形外科 助教  河野 俊介)
  • 股関節疾患は腰椎疾患と誤診されやすい?(佐賀大学医学部整形外科 助教  森本 忠嗣)
  • 歩行検査結果報告書について(佐賀大学整形外科 大学院  秋山 隆行)
  • 新任の挨拶
  • H24年度 股関節だより送付状況

内容

3年間を振り返って

佐賀大学医学部整形外科 教授 馬渡 正明

今年も股関節便りをお届けする時期になりました。教室には新しいメンバーが加わり、気持ちを新たに診療、研究に邁進したいと思っています。

今年の春は暖かく、桜もずいぶん早く咲いたため、3月末には散ってしまいましたが、時がたつのが早くなったような気がしてなりません。教授に就任して3年が経ちましたが、あっという間のようで、ちょっと困惑しています。この原稿を書きながら、この3年間を少し振り返りたいと思います。

毎年多くの患者さんが佐賀大学病院を受診されています。そして大学では年間600例以上の股関節手術を行っていますが、これは全国股関節手術症例の少なくとも1%は佐賀大学病院で行われていることになります。表で分かるように、2010年4月から2013年3月までの3年間で全国37都府県から3417名の方が、新患として大学を受診しておられます。もちろん地元佐賀の方が約60%と最も多く、その他の九州各県合わせて35%で、全体の95%は九州の方を治療したことになります。後の5%の方が、北は青森から南は沖縄まで、遠路はるばる佐賀までお越しになっています。もちろん様々な理由があってのことだと思いますが、地元では治療が難しいと言われた方が多いようです。例えば臀筋内脱臼例や強直股例、骨切り術適応症例(地元では骨切り術ができない)、人工股関節のゆるみや感染で再置換術が必要な方、など、どちらかといえば特殊な治療を要する場合です。

 前教授の佛淵現佐賀大学学長時代から、そういった方々が全国から数多く来られていましたので、私たちの経験値も高くなり、適切な治療が行われていると自負しています。私自身もこの3年間で1500例を超える手術を執刀しており、その積み重ねこそが、治療成績の向上につながるものだと思っています(図1)。

図1

 股関節疾患の最終手段である人工股関節置換術(THA)は、治療効果に優れ、ほとんどの方に満足してもらえる手術であることは間違いありません。もちろんさまざまな合併症があり、それが故に手術をためらわれている方も多いと思います。しかし以前よりその合併症も減っています。例えば術後脱臼も以前は佐賀大学でも2%程度はあったと思いますが、いまは0.5%以下になっています。これには骨頭径が大きくなって股関節可動域が広くなり脱臼しにくくなったことや術中切開した関節包をきちんと縫合することで早期に関節包が修復され、関節が安定化し脱臼しにくくなることなどが挙げられます。感染症はその頻度が0.2%程度で高いわけではありませんが、まだ克服されていない合併症です。私たちの施設では、通常のTHAは40分程度で手術が終わるようにすること(長時間の手術は感染リスクが増加)、術中洗浄を徹底すること(落下細菌除去)、などで感染防止を心掛けていますが、糖尿病や肝疾患など感染に対する抵抗性が低い患者さんではそのリスクが高くなりますので、術前できる限りその疾患のコントロールをしてもらうことが肝要です。これまでこの股関節便りでもお伝えしていた抗菌性インプラントの研究も順調に進んでいて、近く治験が始められるよう準備中ですが、リスクが高い場合はこういった抗菌性インプラントの価値は高いと思います。将来的にはすべての生体インプラントは抗菌性になる日が来るかもしれません。そうなればまた手術合併症が減ることになり福音です。下肢静脈血栓症(VTE)も肺塞栓症をおこせば命にかかわることがあるので、重篤な合併症です。当院ではTHA後の肺塞栓症で亡くなった方はおられませんが、全国的に見れば毎年複数名の方が不幸な転機をとられています。予防対策にはいろいろありますが、早期の離床が重要ですし、抗凝固薬の適正な使用も必要だと考えています。発症した場合のいち早い診断・治療ももちろん重要です。術後の神経麻痺もおこりえますので、これらを合わせると1~2%の合併症があるものの、通常の初回THAでは98~99%はうまくいく、成功確率の高い手術であるといえます。ですからTHAが本当に必要な方はそれほど怖がることはありません。よくなる確率がかなり高いわけですから。

 結局人工関節ではどれくらい長持ちするか?ということが残る問題になるわけです。もちろんインプラントは工業製品であるので、破損は宿命で、乱暴に使えば早くだめになるのは当然です。どんなに理想的に手術をして体の中に埋め込まれても、その製品が不良品ならどうしようもありません。耐久性に限りがある以上激しいスポーツはできません。バレーボールでジャンプし続けるのは危険ですし、ダッシュを繰り返すことも体重の10倍以上の負荷がかかります。特にスピードを急速に落とす(ブレーキをかける)時に最大になります(図2)。レクレーションでやるくらいのスポーツ(ボーリング、サイクリング、ゴルフ、散歩、スイミングなど)はいいでしょうが、転倒する危険性が高いスポーツ(バレー、バスケット、野球、スキーなど)はしないでください。あくまでレクレーションレベルが適当です。

図2 歩行スピードと床反力

 右から通常歩行(5㎞/h)ジョギング(10㎞/h)駆け足(15㎞/h)通常歩行では股関節に体重の4倍~5倍の負荷がかかり、歩行スピードが上がるほどさらに負荷がかかる。駆け足から減速するときに股関節にかかる力は最大になる

 大切に使ったとしても年々摺動面(関節が動くところ)では必ず摩耗粉がでます。この摩耗粉が骨を溶かし、その結果インプラントが緩んでしまい、再置換(やりなおし)しないといけないことになります。最近の私たちの調査で、ここ10年の佐賀大学で使用したクロスリンクポリエチレンとセラミックの組み合わせのTHAではこの摩耗粉がごくわずかしか発生していないということが明らかになりました。これは10年前にしたTHAでも、今後かなり長持ちするのではないかということを期待させます。事実最近10年以上経った例を数多く見てもインプラントのゆるみはほとんどなく、30年ぐらいは楽にもてるのではないかと思ったりしています。まだ油断はできませんが・・・

一度の手術で一生済ませることができれば、理想的ですが、現実はそういうわけにはいきません。THAを受けられる方には必ず、もう一度あるいは二度、手術を受ける可能性があることを話しています。もちろん長生きされればされるほどその可能性は高くなります。誰でも再手術はいやなのは当然ですから、THAを受けた方がその結果に十分満足し、ある程度の長期間にわたって効果が持続した後であれば、再手術も受け入れやすいのではないかと考えています。例えば最低でも30年は使えるインプラントができれば患者さんはより安心して手術を受けられると思います。より耐久性のある、より良いインプラントが開発されるように、今後もメーカーと協力していきたいと思っています。

この3年間で多くの患者さんの治療に携わり、多くの貴重な経験をさせていただきました。まだまだ完璧な治療ができているわけではありませんが、すこしでも合併症なく、早期の社会復帰をしてもらい、多くの人に喜んでもらえるように、今後も教室員一同励んでいきたいと思います。

2010.4.1-2013.3.31(新患)


診療ガイドラインについて

佐賀大学医学部整形外科 准教授 園畑 素樹

こんにちは、皆様おかわりないでしょうか。

今回は、「ガイドライン」についてお話ししたいと思います。ガイドラインというのは、指針、指標、ルールといった、守る事が望ましいと考えられる規範の事です。

病気やけがの種類は、まさに星の数ほどありますが、おもな病気やけがには、治療方針についてのガイドラインがあります。病気やけがに対するガイドラインを作成するためには、これまでに発表された世界中の研究や調査の結果、つまり論文をチェックします。そして、それらの論文のなかから信頼性が高いものを選び出し、いくつもの結果を総合判断して一つの結論をだします。文章にすると簡単ですが、これはかなり大変な作業です。

 しかし、それぞれの病気やけがに対するガイドラインは一つではありません。色々な国の多くの学会が独自のガイドラインを公表しています。ガイドラインの基本的な部分では共通しているところも多いのですが、各国の医療制度、経済状況、文化、民族性などによって異なる部分も多くあります。

日本の変形性股関節症についての診療ガイドラインは、日本整形外科学会が作成したものがあります(図1)。

【図1】

 日本独自の特殊性として、①変形性股関節症の8割以上が「発育性股関節形成不全症」が原因となっていること(米国では少数派です)。②国民皆保険制度である事。③関節温存手術の選択肢がある。などのさまざまなものがあります。

ガイドラインの全てを紹介するのは難しいのですが、皆さんにとって興味がある治療方法についてのガイドラインをいくつか紹介させていただきます。ただし、ガイドラインというのはあくまで一般的な指針ですので、全ての患者さんにそのままあてはまるわけではない事を御理解下さい。実際の治療法の選択は各患者さんと主治医との相談によって決まります。

変形性股関節症診療ガイドラインに記載されている、
治療に関する代表的なQ&A

Q1 変形性股関節症に対する運動療法の効果は?
A 運動療法は短期的な痛み、機能の改善に有効である。しかし、病気そのものの進行を予防するかは不明です。
Q2 変形性股関節症に対する温熱療法(ホットパックなど)の効果は?
A 温熱療法は短期的にはQOLの改善に有効であるが、治療効果は不明です。つまり、気持ち良いが、治療といえるかどうかはわからないという事です。
Q3 変形性股関節症に対する痛み止め(鎮痛剤)の効果は?
A 痛みを和らげる効果はありますが、病気そのものの進行を予防するかは不明です。
Q4 変形性股関節症に対するサプリメント(グルコサミンなど)の効果は?
A 症状を和らげる可能性はあるが、一定の見解は得られていない。つまり、効果があるかどうかははっきりしていないという事です。
Q5 変形性股関節症に対する関節内注射の効果は?
A これも、鎮痛剤と同じように、痛みを和らげる効果はありますが、病気そのものの進行を予防するかは不明です。
Q6 変形性股関節症に対する関節温存手術の効果は?
A 変形性股関節症に対する関節温存手術はいくつもあります。

  • 大腿骨の骨切り術(内反骨切り術、外反骨切り術)
  • 臼蓋形成術(骨盤側に骨を移植する手術)
  • キアリ骨切り術
  • 寛骨臼回転骨切り術、寛骨臼移動術

などがガイドラインに記載されていますが、いずれの手術も一定の効果があるとされています。その中でも、佐賀大学で行われている寛骨臼回転骨切り術、寛骨臼移動術が最も推奨されています。骨切り術についてのガイドラインがあるのは、日本独自であると言えます。

Q7 変形性股関節症に対する人工股関節手術の効果は?
A 人工股関節手術は日常生活の質の向上や歩行能力の改善に有用だと記載されています。この点については、多くのガイドラインに共通した結論です。しかし、手術後の脱臼、感染、血栓などの問題について記載されています。

 いかがだったでしょうか。ガイドラインの一部を紹介させていただきました。

 ガイドラインには、上記のほかにもさまざまな事が記載されています。ご不明な点などありましたら、外来受診の際にでもお尋ねください。

外来でお会いできることを楽しみにしながら、皆様の益々のご健勝をお祈りします。それでは、失礼します。


人工股関節について知りたいことは何ですか

佐賀大学医学部整形外科 講師 北島 将

馬渡先生を中心とする股関節外来は、数人の助手(ばいせきともいいます)が付きます。皆様の話を聞き、レントゲンを確認し、カルテに記載する仕事をしています。私も月曜日の助手についていますが、昨年一年間、外来で聞き取り調査を行い、一年で何人くらいの人と話をしているのだろうかを調べてみました。おおよそ、200~300人の方と話をできることが分かりました。昨年1年間で、外来中に聞けた質問をまとめてみました。

質問1 手術前に運動はしていましたか?手術後に運動はしていましたか?
 手術前に運動をされていた方は、224名中41名(18%)でした。ウォーキングやプール内での歩行などは外しました。

1位 水泳、2位 バレーボール(ミニ含む)、3位 ゴルフ 手術後も運動をされている方は21名(9.4%)となり、手術前に運動をされていた半分の方が手術後は中止しているという結果でした。水泳(泳ぐこと)は、術前にされていた方は続ける率が高く、10名中7名の方が術後もしています。ちなみに術後のスピードは術前とあまり変わらないようです。そのほか、社交ダンスやリズムダンスなども、術後に続けている方が多いようです。バレーボールは、ほとんどの方は術後止めていました。ゴルフは、半分の方は続けていました。最近は、ゴルフをされている方に、スコアがどうなのかまで聞いています。(私はゴルフはしませんので、スコアの良しあしまでは分かりませんが、照れたようにみなさん話されますので、聞かない方がいいのかなとも思っています。)まだ聞いている人数が少ないのですが、術後にスコアはそれほど変わらないようです。一人すごい上手な方がいて、その方はスコアがずいぶん落ちたと言われていました(ハーフで50を超えると嘆いておられました)。

一人でする運動は術前後もされている方が多いようですが、人と接触するようなスポーツは術後は控えておられる方が多いようです。これからもデータを集めていきますので、こんな運動やっていますというのがあれば教えてください。

質問2 歯の治療はしていますか?
 この質問をみなさんにすると、「歯が人工関節と何か関係があるのですか?」と聞かれます。一般的に、人工関節の感染の原因として、虫歯(う歯)からの可能性が指摘されています。しかし頻度は低く、1万人あたり4人から7人(0.04%~0.07%)と言われています。(股関節だより18号に中村先生が特集しています。) 今回は、歯の治療を受けているかどうか(検診を含む)を聞いてみました。140名中の88名(63%)の方が検診を受けているとの結果でした。厚生労働省の平成17年歯科疾患実態調査によると、60歳から64歳までのう歯の罹患率は97%で、処置をされているう歯は62%と言われています。今回の調査の検診率63%とかなり近い値となっています。60%前後の方は何らかの形で歯医者さんに行かれていることが分かりました。人工関節を受けているからといって特別に歯医者さんへの通院が多いわけではありませんでした。

歯周病と歯医者さんから言われたかどうかも聞いてみました。27名中8名(30%)の方が歯周病といわれたことがあると答えています。人工関節ではありませんが、心臓の弁膜症の手術予定の患者さんの調査では、15%に歯根周囲の膿瘍を、44%に歯周炎を認めたと報告されています。年齢などは異なりますが、4割の方が手術前に歯周炎があったことになります。この結果から、う歯(未処置40%)や、歯周炎(30%)と診断されることは多いことが分かります。歯周炎になったからと言って、必ずしも人工関節の感染につながることはありません。通常通りの生活をして、歯が痛い場合は早めに治療をしていただくことをお勧めしています。

質問3 自転車は乗っていましたか?
 術前に乗っていた方は、96名中44名(46%)でした。股関節が痛かったので、歩くより自転車の方が楽と言われていた方や、股関節の動きが減ってきてこぎにくくなって止めたという方がおられました。

術後は、23名(24%)の方が乗っておられました。半数の方が自転車に乗るのをやめておられ、原因の一番は「倒れるとこわいから」でした。全国の自転車の利用分担率は、おおよそ5~25%と幅があります。大阪市などの都市部は25%と多く、坂道が多い長崎市などは1%と低く、自転車を利用するかどうかは地域差が大きいようです。今回の調査では、術後、自転車に24%の方が乗っておられましたが、多いのか少ないのかの判断は難しいです。自転車のスピードは一般成人は15㎞/hです。歩行のスピードが5㎞/hですので、自転車は歩くスピードの3倍と言われています。人工股関節の術後に自転車のスピードが上がるか下がるかも分かりませんでしたが、佐賀大学では歩行検査をしていますので、自転車検査もありかもしれません。

人工股関節の術後は自転車に乗れますかとの問いには、乗れますと答えられます。しかし、倒れませんかとの問いには、・・・・倒れるかもしれないので、倒れないように乗ってくださいと答えるしかありません。ちなみに、一般的に自転車の転倒を経験した人は30%程度とのことです。

去年は私が知りたいことを聞いてみましたが、可能ならば、「人工関節を受けた方がほかの人に聞いてみたいこと」を調べられないかと考えています。もし、外来で私に言っていただければ調査をして、この股関節だよりで報告したいと思います。アンケートにした方がいいのではとのご意見もあるかと思います。今回の調査にかかった費用は0円で、周りの人にかけた労力も0(自分が100)です。アンケートの場合は回収率が問題になりますが、今回の調査は聞き忘れ以外は聴取率は100%です。人工股関節についてこれが知りたいということがあれば、調べますので教えてください。時間はかかりますがご了承ください。(何回も聞かれたという方はご容赦をお願いします。)


人工股関節のライナー摩耗の実際

佐賀大学医学部整形外科 助教 河野 俊介

 前々回に、人工股関節の摺動面のお話をさせて頂きましたが、今回手術後10年以上過ぎた患者さんが、実際どれくらいポリエチレンライナー(軟骨の代わりの強化プラスチック)が磨り減っているのか調べましたので記載させて頂きます。

当院では2000年8月から架橋ポリエチレンライナーとセラミック(ジルコニア)骨頭を使用してきました。ポリエチレンが磨り減ると削りカスがでて、これを体内で処理する際に骨を溶かし、人工股関節のゆるみにつながります。削りカスがでても、少しずつ磨り減った場合には、骨を溶かさずに体が処理できゆるみが出にくくなります。ゆるみが進行すると、人工関節が不安定になり再手術が必要となるため、いかにポリエチレンが磨り減らないかということが、人工股関節の長期成績につながってきます。

実際に、手術後10年すぎた時点でのポリエチレンの磨り減った量は0.29mmでした(図1,表1)。ポリエチレンの厚みは一番薄い人でも6mm以上あり、20年はおろか100年たっても擦り切れてしまわないほどの少ない量でした。もちろん人工物で経年的な劣化の問題もあり、単純計算はできませんが、現在手術前に20~25年持ちますと説明しているのが、30年以上大丈夫ですと自信をもって勧めれるようになればと期待しています。

また、昨年2月より今回調べたポリエチレンライナーの表面に、特殊加工を行い耐摩耗性を増加させたアクアラ®ライナー(京セラメディカル製)の使用を開始しており、更なる成績改善が得られればと考えています。今後、骨頭の大きさによる違いやポリエチレンライナーの厚みによっても摩耗量が異なるため、長期的な摩耗量の計測を行い、人工関節の長期寿命にfeedbackできればと考えております。ご不明な点がありましたら、外来などでお尋ねください。

図1:各年の臼蓋と骨頭の中心間距離

表1:摩耗量の計測

線磨耗量
0.29±0.22mm(0.00〜0.95mm)
線磨耗率
0.029±0.022mm/year(0.000〜0.091mm/year)
定常線磨耗率
0.027±0.024mm(0.000〜0.103mm/year)
線摩耗量:
10年間の摩耗量
(術後10年中心間距離−術後1週中心間距離)
線摩耗率:
10年間の摩耗量/10
定常線摩耗量:
術後10年中心間距離−術後1年中心間距離/9

股関節疾患は腰椎疾患と誤診されやすい?

佐賀大学医学部整形外科 助教 森本 忠嗣

2011年4月1日より佐賀大学整形外科にて、脊椎(くびや背中や腰)や脊髄の病気の診断、治療を行いはじめ2年がすぎました。変形性股関節症の患者様の多くに腰椎疾患の方が多いことも再認識させていただきました。時折、股関節が悪いのに、腰椎疾患を疑われ前医で腰椎手術が行われるも症状不変、後ほど当院で股関節手術を行い症状改善という患者さんもいらっしゃいました。

“もう少し早く楽になりたかった。私のような患者さんを減らしてほしい”と涙ながらに訴えられる方もいらっしゃいました。そこで、数年前より何故、股関節疾患は腰椎疾患と誤診されやすいかについて調査し、学会で報告し、露文を書いてきましたので紹介します。

①  誤診または診断の遅れの頻度と誤診病名は?
当院で診療を行った変形性股関節症1163例の前医の誤診・診断遅延率は5%であり、誤診病名の98%は腰椎疾患であった(Hip Joint 2008)。

② 変形性股関節症患者の問診票
「今日はどうして受診されましたか?」という問診票の質問項目に対して、股関節のことを記載された患者さんは69%でした。残りの31%は、腰・膝・足が痛いと記載されていました(Hip Joint 2008)。医師が患者さんの思いをうまく汲み取れない場合は先入観で股関節疾患を見逃すことがありうる?

③ 変形性股関節症患者の痛みの範囲
股関節部(鼠径部67%、外側部61%、殿部54%)は99%。しかし、大腿部から膝にかけて16%、下腿部7%と膝より末梢に痛みが放散する方もお見かけしました。(臨床整形外科2009)。腰椎疾患による神経痛と誤診される一因と考えられました。

④ 変形性股関節症患者の腰痛
変形性股関節症患者の術前一ケ月での腰痛の自覚率は57%、痛みの程度は股関節痛を10とすると平均4.6と半分以下であるが、12%の方は股関節痛と同等以上と答えられました(Journal of Spine Research 2010)。腰痛の方が強い患者さんでは腰椎を先に調べられ誤診されうる?

⑤ 腰椎X線の股関節をふくめているか?
腰椎疾患を疑い腰椎X線撮影をしたときに腰椎X線の撮影範囲に股関節を含めていれば股関節疾患の見落としを防げる場合があります(佐賀大学ではそうしています)。そこで、佐賀県の整形外科のある病院の腰椎X線の撮影方法についてアンケート調査を行ったところ、腰椎X線に股関節をふくめて撮影している施設は25%でした。(日本脊椎脊髄病学会2013)

今後も、股関節疾患と腰椎疾患の誤診例・見逃し例を減らすために調査し、報告していく所存です。皆様にアンケートや診察などご協力をお願いする事があるかもしれませんが、そのときは宜しくお願いします。


歩行検査結果報告書について

佐賀大学整形外科 大学院 秋山 隆行

股関節便りの読者の皆様、いかがお過ごしでしょうか。歩行検査室が医学部キャンパス内の研究室から病院内(レントゲン室の隣)に移動してから早3年が過ぎました。一人の検査に20分前後の時間がかかるため外来患者の皆様すべてに行うことができず申し訳ございません。

今回は、歩行検査の後に渡される歩行検査報告書について少し説明したいと思います。

現在、お渡ししている歩行検査報告書には、図1のようにケイデンス(足の運びの速さ)、歩行速度、ストライド時間、ステップ時間、対側離床、対側接地、遊脚期率、単脚支持時間、両脚支持時間、ストライド長(歩幅(両側))、ステップ長(歩幅(単脚))の11項目があります。

① ケイデンス(足の運びの速さ)
1分間あたりの歩数を示します。男性110歩/分、女性116歩/分。高齢者では減少します。

② 歩行速度
文字通り歩きの速さです。通常、なにも意識しないで歩く(自由歩行)場合、男性86m/分(1.43m/秒)前後、女性77m/分(1.28m/秒)前後で、子どもや高齢者ではそれよりも低くなります。

③ ストライド長(時間)、ステップ長(時間)
混同しやすい、似たような言葉ですが、ステップ長とは片足の踵を着いたところから反対側の踵を着いたところまでの距離、ストライド長とは2歩分、つまり、片足の踵を着いたところから次に同じ側の踵を着いたところまでの距離のことです(図2)。身長(cm)から100(cm)引いた値が標準的なステップ長と言われていますが、高齢者では減少します。ステップ時間、ストライド時間は各々にかかる時間を表しています。

④ 対側離床、対側接地、遊脚期率、単脚支持時間、両脚支持時間
右足を基準として歩行の流れを考えると、右足の踵を床につく、左足が床から離れる(対側離床)、左足が床につく(対側接地)、右足が床から離れる(同側離床)、右足が床につく、までが一つの歩行周期になります(図3)。百分率にして、通常、対側離床は12%前後、対側接地は50%前後、同側離床62%前後になります。単脚支持とは片足だけで立っていること、両脚支持とは両足とも床について立っていることを言います。ですから単脚支持時間とは、反対側の足が床から離れて次に床につくまで1本足で体を支えている時間、両脚支持時間とは両足ともに床についている時間のことです。痛みがある側の足、支える力のない足の単脚支持時間は反対側の足に比べて短くなります。

 上記の項目について、左右のバランスや手術前後の変化について比較してみることができます。今回はおおまかな説明のみさせて頂きました。何か気になることがあれば、検査の際にご質問ください。

図1.歩行検査報告書の一部

図2.ステップ長、ストライド長

図3.右足の歩行周期


新任の挨拶

佐賀大学医学部整形外科
助教 関節リウマチ・膝関節班 長嶺 里美

股関節便りをご覧の皆さま、こんにちは。整形外科入局15年目の長嶺です。平成25年4月1日より7年ぶりに大学の助教として勤務することになりました。

専門は関節リウマチですが、その他の関節疾患なども診療しています。現在は膝関節班にも所属させていただいており、外来は週2回受け持っています。

せっかくの機会ですから、今回は関節リウマチという病気についてお話させていただきたいと思います。「手がこわばって動かない」「関節が腫れて痛い」「体がだるい」「なんとなく疲れやすい」など、関節リウマチのつらさは、なかなか他人にはわかってもらえないものです。関節が炎症を起こし、軟骨や骨が破壊されてしまい、関節の機能が損なわれ、放っておく関節が変形してしまいます。また、関節だけにとどまらず、微熱、疲労感、食欲不振、体重減少といった症状を伴うこともあり、時には関節の症状が肺や血管など全身に広がることもあります。発症年齢のピークは30~50歳代で、男性よりも女性の方が約4倍も多く発症しますが、60歳以降に発症する方も少なくありません。

そもそも関節リウマチは自じ己こ 免めん疫えき疾しっ患かんのひとつです。免疫は通常、外部から体内に侵入してきた外敵(細菌やウイルス、それらに感染した細胞など)を攻撃し、体内に侵入した異物や異常な細胞をやっつける働きを担っています。しかし、免疫に異常が生じると、誤って外敵ではなく味方(自分自身の細胞や組織)を攻撃してしまい、その結果として炎症を引き起こし、関節リウマチの場合では関節の腫れや痛みとなって現れ、骨や関節を破壊していきます。

かつて関節リウマチはゆっくりと進行し、発症から10年以上経過してから関節破壊が生じると考えられていましたが、最近では関節破壊の進行は発症後早期から急速に起こることが分かっています。関節の腫れや痛みがひどくなくても、関節の中では炎症が続いていて、関節破壊が進行していることもあるのです。つまり多くの場合、関節破壊は発症から2年以内に急速に進行するため、早期発見、早期治療がとても大切になってきます。

ひと昔前まで、関節リウマチは、痛みや腫れなどの自覚症状を抑える治療が一般的でしたが、近年では薬物療法が飛躍的に進歩したことで、現在では関節リウマチ患者さんの将来の関節損傷を長期にわたって防ぐことが可能となりました。関節リウマチの治療の目的は、「寛かん解かい」を目指すことです。「寛解」とは、関節リウマチの症状・兆候が消失した状態のことです。適切な治療を行うことで、「寛解」を達成し、さらには「寛解」を維持することを目指さなくてはいけません。

関節リウマチの治療法として、症状や進み具合に合わせて、薬物療法、手術療法、リハビリテーションなどが行われます。中心となるのは薬物療法ですが、関節リウマチの治療には、消炎鎮痛薬(NSAIDs)、抗リウマチ薬(DMATRDs)、生物学的製剤などが使われます。また、薬物療法を行っても効果が少ない場合などは、増殖した関節の滑膜を取り除く滑膜切除術や破壊された関節の機能を再建するため人工関節置換術などの手術療法を行います。

現在日本には70万人以上の関節リウマチ患者さんがいると言われています。かつては「なかなか打つ手がない」とか「ずっと痛みとつきあっていかなければ」と思われていましたが、この10年で関節リウマチ医療は大きく進歩しました。

病気の罹病期間にかかわらず、薬物療法・手術療法などの治療についてのご相談や症状についての気になることや悩みごとなどありましたらいつでもお声かけください。また「私ってリウマチかな・・・」とか「なんとなく当てはまるような・・・」といった方々もご遠慮なくご相談ください。外来でお待ちしています。

佐賀大学医学部整形外科
助教 田島 智徳

みなさまいかがお過ごしでしょうか。平成25年4月から佐賀大学で勤務しております田島と申します。思い起こせば医師としてスタートした1年目の年に、第7号股関節だよりに新入局員あいさつを投稿したのですが、あれからあっという間に十数年が経ち、再度、自己紹介の文章を書かせていただく機会をいただきましたことを嬉しく思います。大学病院は4年ぶりの勤務となりますが、3階西の整形外科病棟は以前と変わらず元気な患者さんで活気にあふれていました。術後に一生懸命リハビリに励んでいる患者さんをみると、私どもの病院を選んでくれたことに感謝するとともに最高の医療で応えなければならないと身が引きしまる思いです。専門は膝関節ですので、股関節外来ではみなさまとお会いする機会はあまりないかもしれませんが、変形性股関節症が原因で膝の痛みや変形を合併することもありますので、気になることがありましたらぜひ御相談ください。今後ともよろしくお願いいたします。

佐賀大学医学部整形外科
助教 染矢 晋佑

みなさんこんにちは、染そめ矢や 晋しん佑すけです。4年ぶりに大学へ帰ってきました。今年で整形外科医となって12年目になります。これまでの勤務先は
1・3・6・7年目:大学
2年目:嬉野医療センター
4年目:済生会大牟田病院
5年目:福岡整形外科病院
8・9年目:長崎医療センター
10・11年目:多久市立病院

というふうに、様々な病院で働かせて頂き、貴重な経験をさせて頂きました。大学に戻ってくると、以前に主治医をさせて頂いた患者さんと接する機会も多く、懐かしくもあり、また新鮮な気持ちになります。仕事のシステムは変わってないところも多く、あーそうだった、これもそうだったと毎日思い出しながら働いています。いつのまにか病院の1階にはドトールコーヒーとセブンイレブンができていて、なんか都会っぽくなった感じがしてます(自分だけ?)。

自分は身長が大きいので、久しぶりに会う方々からは「また大きくなった?」とよく質問をされます。でもここ12年間身長伸びてないですからね(冗談とわかっていてもついムキになります)。また患者さん達からは病室の出入り口につっかえそう、とご心配頂きますが大丈夫です、まだ余裕あります。みなさんやさしいですよね。

関節外科としては膝関節班に所属しており、トップの井手先生のもとで多くのことを学んでいきたいです。まだまだ未熟ですが、知識をつけて技術を磨いて少しでも患者さんの助けになれるように努力していきたいと思います。また外来などでお会いするかと思いますが、いつでも気軽に声をかけて下さい。これからもよろしくお願いします。

佐賀大学医学部整形外科
助教 池邉 智史

皆様こんにちは。

平成25年4月より佐賀大学へ戻り、助教として勤務させて頂いております。

池邉智史と申します。専門は外傷、肩関節外科一般で、肩関節および一般整形外来を週1回受け持っております。外来では平成24年以前に私が執刀させて頂いた外傷および肩関節疾患の患者様の定期検診をさせて頂いております。新患の数はまだごくわずかですが、近隣の開業医の先生からのご紹介で来られる方や、股関節、膝関節外来の定期検診の際に肩の痛みを訴えて来られる方もいらっしゃいます。

私が整形外科に入局したころは整形外科の手術と言えば、もちろん股関節、続いて膝関節がほとんどで脊椎や外傷、または他関節の手術は大学ではあまり行われていませんでした。最近の佐賀大学では股関節、膝関節手術はもちろんですが、それ以外にも脊椎や外傷の手術が大幅に増加しております。そんな中、肩関節の分野でも外来、手術など患者様方の痛みの緩和、機能の回復のために日々努力していこうと思っています。

ところで、皆さんは肩関節という関節にどういうイメージをお持ちでしょうか?少し肩のお話をさせていただこうと思います。

脊椎動物の進化の上で肩関節は大きく変化してきたと言えます。4本足で歩く犬や猫、馬などと異なり、ヒトの肩甲骨は背中にあります。2本足で歩くヒトは生活の場を地上から安全な木の上へ移動させていったと考えられています。木の上で生活するために手を頭の上に挙げることが必要となり、そのために肩甲骨は徐々に体の横から背中へと移動して行ったのでしょう。そしてそのことが肩を人体の中でとても広く、自由に動く関節としています。また肩関節は、股関節と同様に受け皿(股関節では骨盤、肩では肩甲骨)の上で球状の骨頭が動く、すなわち球関節ですが股関節のそれと比較して受け皿が浅く、骨性の被覆が少なくなっています。それゆえ非常に自由度が高く、その反面不安定な関節であると言え、人体で最も脱臼しやすい関節です。その自由度と安定性のバランスが肩の治療には重要になってきます。カチカチに固めてしまえば安定性はよくなりますが、肩関節の特徴である高い自由度は失われるし、逆に自由に動けば動くほど限界を超えて不安定となり脱臼してしまいます。

肩こりなどの肩の悩みを抱える患者様は腰、膝についで3番目に多いと言われています。毎週水曜日が私の外来担当日ですが、月、金の股関節外来にも陪席として出ておりますので、肩のことでお困りの際は気安くお声をおかけください。それでは今後ともよろしくお願いいたします。

佐賀大学医学部整形外科
大学院 上野 雅也

平成25年4月より整形外科大学院に入学しました上野雅也といいます。

佐賀大学を卒業後、佐賀大学医学部附属病院、福岡記念病院、多久市立病院、嬉野医療センターにて勤務して参りました。

医師になり8年、佐賀大学整形外科に入局してから6年が経ちますが、股関節だよりに文章を載せていただくのは初めてですので、自己紹介をさせていただきます。

生まれは長崎県佐世保市ですが、その後親の転勤もないのに福岡の小学校を卒業後、松山の中学高校に通い、大学は佐賀、と転々としていたため、「出身地は?」と尋ねられると返答にいつも困っています。

諸先輩方の例に漏れず、私も整形外科医を志したのは自分が骨折をした経験があるからです。小学校1年生のころ学校帰りに交通事故にあい、脛の骨折をしてしまいました。幸いにも初診時の徒手整復(ずれた骨をもとの形に戻すこと)できれいに形が戻ったためギプスのみの治療で治癒しましたが、診察が痛かったことやギプスカッターがとても怖かったこと、ギプスの中がかゆくてたまらなかったことを印象深く覚えています。

自分が関わった子供たちの中にも未来の整形外科医がいるかもしれないと思い「将来は整形外科医になろう!佐賀で一緒に働こう!」と積極的なリクルートをしかけています。いつか一緒に働ける日はやってくるのでしょうか。楽しみでもあり、「あの時先生が痛くしたから、そうしないように医者になったんだ」とでも言われないか怖くもあります。

さて、現在整形外科の大学院では“抗菌性を有する人工関節の開発に関する研究”と、“整形外科疾患における動作解析(歩行解析)に関する研究”を行っています。

これまでの研究を継続しさらに発展させていこうと思います。

今後ともよろしくお願い申し上げます。

佐賀大学医学部整形外科
平田 寛人

皆様、お初にお目にかかります。

平成25年4月より佐賀大学整形外科に勤務しております平田寛人と申します。

平成23年3月に佐賀大学医学部医学科を卒業しまして、久留米にある社会医療法人天神会 新古賀病院に勤務しておりました。

この度、医学生の時分より興味を持ち、学んで参りました整形外科学を専攻することといたしまして佐賀大学へ帰って参りました。

まだ整形外科学内での専門分野はございませんが、患者様の病気やそれに伴う症状に真摯に対応させていただきたいと考えております。

大学病院内で最年少でありまだ不慣れなことも多くございますが、よろしくお願いいたします。

趣味はラグビーをすること観ること、名作と呼ばれる本の読書(現在;燃えよ剣 下巻終盤)、ゴルフ、ドライブ、劇団四季鑑賞。。。と幅広く・浅く気が向いたときに楽しんでいます。


H24年度 股関節だより送付状況

医局 野中 寿栄

H24年度股関節だより送付状況をお知らせいたします。
H23年、H24年の送付状況を掲載しています。
表と地図でお分かりになると思いますが、全体的に300名ほど増加しています。
九州で200名、佐賀県内70名、それ以外では20名ほど増加しています。
手術件数も人工関節と骨切り術を合わせて7000例ほどになります。
全国から手術予約に多くの患者さまが来院されてまして、現在手術も8か月待ちになっております。
来年は、今年以上に増えているかもしれません。
これからも股関節だよりをよろしくお願いします。