見学のお問合せ

2019.08.06

脊椎便り 第9号

  • ご挨拶(佐賀大学医学部整形外科 講師 森本 忠嗣)
  • “術後C5麻痺”について
  • 腰椎椎間板ヘルニア 診療ガイドライン
  • 近況報告
  • 忘れられない患者さん

内容

ご挨拶

講師 森本 忠嗣

佐賀大学整形外科にて、脊椎(くびや背中や腰) や脊髄の病気の診断、治療を行いはじめ9年目を迎えました。手術症例数は右肩上がりに増え続けており、“疲弊”を実感していたのですが、2019年1月に吉原先生が大学院の仕事をほぼ終了し臨床復帰してくれ、森本、前田、吉原の3人体制で脊椎診療を行うようになり以前に比べ大分余裕がでてきました。感謝です。第9号脊椎だよりでは、例年通り、前田先生、塚本先生、吉原先生が近況を報告してくれています。また、福岡記念病院で脊椎診療を行っている隈元先生、脊椎外科を専門の一つに考えてくれた戸田先生、中山先生などからも近況報告が届いています。諸先生の近況報告以外に、平田先生からの椎間板ヘルニアの診療ガイドラインの紹介があります。楽しんで読んでいただけたら幸甚です。佐賀大学整形外科脊椎班に新たな仲間が加わり、本当に嬉しく思います。一方で、彼らをより良い方向に導き、佐賀の整形外科・脊椎外科を発展させる重責に身の引き締まる思いを噛み締めながら、日々、奮励努力をつづけています。

脊椎手術数

2018年度(2017年4月より2018年3月まで)も手術数は右肩上がりで増加し、年間276例(昨年は232例)でした。近年、高齢化社会に適応した低侵襲脊椎手術(MISt手技、XLIF/OLIF)、手術支援ナビゲーション、ロボット手術の臨床応用、画像技術(AI、VR/MR)の手術・医学教育への応用、iPS細胞をはじめとした再生医療といった脊椎外科領域の手技や技術の発展は目を瞠るものがあります。絶えず情報を集め、十分に吟味した上で新技術をとりいれ、患者さんに有益となる安全で確実な手術を実施する所存です。「ファーストペンギン」は怖いですが、「リスクをとらないリスク」も怖く、やはり、迷った場合は自分の家族だったらどうするかを判断基準にするしかないかなと思います。今後も、大学病院の特徴を活かし、他科との連携を密にし、様々な合併症のある患者さんでも安全に手術が行えるように心がけて
いきます。
*「ファーストペンギン」とは、群れで行動するペンギンのうち、魚を捕るために一番最初に海に飛び込むペンギンのこと。必要以上にリスクを恐れずに成果を得ようと新しい挑戦をする姿勢を示します。

<研究活動>

脊椎班として全国学会としては日本脊椎脊髄病学会に6題、日本整形外科学会総会9題、ISSLS(国際腰椎学会今年は京都)5題と、国内外の大きな学会で発信できました。新しい話題としては、銀-ハイドロキシアパタイト(銀-HA)を表面加工した脊椎implantの開発です。馬渡教授が中心となり開発されてきた銀-HAを表面加工した人工股関節は2016年より商品化されて良好な成績をおさめています。馬渡教授のご指導のもと、銀-HAを表面加工した脊椎椎体間のケージの有用性を証明する実験を実施中で、2019年2月に、第13回ふくおか「臨床医学研究賞」を受賞し、2019年度の科研費(基盤研究C)も獲得しました。少しずつ歩みをすすめ、本技術の臨床応用につなげていきたいと思います。銀-HAを表面加工した人工股関節が多くの患者さんの福音となったように!前回も記載しましたが、“Thinkglobally,actlocally”を掲げ、臨床と研究を両輪とする所存です。今後も佐賀大学整形外科の伝統である1日3回以上回診を続けて、患者さんの診察をさせていただくなかで見えてくることを大事にしていきたいと思います。 今後ともご協力よろしくおねがいします。


“術後C5麻痺”について

佐賀記念病院整形外科 塚本 正紹

頚椎の手術を受けたある患者さんのお話です。手術は無事に終わり、術直後は普通に挙がっていた手が数日後、急に挙がらなくなりました。「昨日までは普通に動かせていたのに…、なんで?」「時々ある合併症です。6か月くらいで大体良くなりますから、様子を見ましょう。」「そう言われても、手は挙がらないし…。」これが“術後C5麻痺”です。頚椎の手術後、数日たってから急に肩や肘が動かしにくくなる、手が挙がらなくなることがあり、これを私たちは“C5麻痺”と呼んでいます。C5とは、(三角筋)や肘を曲げる筋肉(上腕二頭筋)を支配していますが、手術後にこのC5領域の麻痺が発生するために、“術後C5麻痺”と言われます。この術後C5麻痺のほとんどは6か月以内に回復することが多いので、「放っておいても大丈夫。」「心配要らないから、様子見ましょう。」と言う先生もいるかもしれません。ですが、その間、手が挙がりにくいので食事がとりにくい、着替えがしにくいなど患者さんにとっては大きな問題です。そこで“どげんかせんば!”、“この麻痺の原因(犯人)は何だ!”とこれまで様々な研究がされてきました。今回は、その内容を少しお話しさせていただきます。

その1.頻度)

頚椎後縦靭帯骨化症(けいついこうじゅうじんたいこっかしょう)や頚椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)などの首の病気では、慢性的に頚髄(首の神経)が強く圧迫を受けていますので、首の後ろからエアードリルなどを使用して骨を削って脊髄(頚髄)の通り道を広げ、しびれ等の原因となっている圧迫を取る(除圧)手術が行われることが多いです。椎弓形成術(ついきゅうけいせいじゅつ)や脊柱管拡大術(せきちゅうかんかくだいじゅつ)と呼ばれる手術ですが、比較的簡便で手術時間も短いため、日本では非常によく行われています(図1,図2)。この頚椎後方手術における術後C5麻痺の発生率は、おおよそ5%前後とされています。最近は手術手技向上やその対策のためかその発生率は減少傾向にあるとの報告もありますが、未だゼロではありません。一方で手術器具の発達によりインストゥルメント(背骨を固定する金具です)を併用した手術も増加していますが、インストゥルメントを用いた手術ではC5麻痺の発生率が増加するとも言われています。頚椎の前方手術でも生じることがあります。またほとんどは片側に発生します(93~95%)が、両側に生じることもあります。頚椎後縦靭帯骨化症
(OPLL)では、発生率が他の疾患に比べて高いとも言われています。発症時期は、一般的に手術直後から2か月以内に発生するといわれますが、多くは術後2~7日に急に発生します。発生後はリハビリテーションを中心とした保存治療(お薬やリハビリ、電気治療などの手術以外の治療)が行われることがほとんどですが、追加で手術が行われることも稀にあります。

その2.予後)

一般的に術後C5麻痺は自然軽快し、予後良好とされています。が、改善しないC5麻痺もあります。これまでの過去の報告を簡単にまとめると、ほとんどの症例(70%程度)では発生後6か月以内に改善する、発症時軽度のものは3か月以内に改善することが多い、しかし重度の場合には明らかに改善が遅く、完全に改善していない症例もあります。
発生率からもわかるように、C5麻痺はそれほど稀な合併症ではなく、ある程度経験のある脊椎外科医であれば1度や2度はつらい経験をしているのではないでしょうか。頻度が比較的高いため、症例数も多く、これまで国内外で様々な研究がなされ、原因について多くの説が提唱されています。

その3.原因)

C5麻痺の原因として、1神経根障害説;除圧後に脊髄が後方に移動することで神経根が引っ張られて障害を受けてしまうのではないか?(図3)2脊髄障害説;長く圧迫され血流が悪い状態にある神経組織が急激に除圧されると、再灌流(血流が復帰すること)によってフリーラジカル(活性酸
素)やサイトカイン(炎症性物質)が発生してしまい、神経の障害を引き起こすことがあり、慢性的に圧迫されていた頚髄が手術で急激に除圧されることによって脊髄が障害を受けてしまうのではないか?3熱傷害説;術中使用するエアードリルの摩擦熱によって神経が障害を受けてしまうのではないか?などが考えられています。そのため、除圧後に脊髄が後方に移動しすぎないように骨を削る幅をミリ単位で厳密に調整する方法やC5神経の入り口を予防的にあらかじめ除圧する方法(予防的椎間孔拡大術)、フリーラジカルやサイトカインの放出を抑える薬剤を投与する方法、ドリルの先端に氷冷した水をかけながら手術を行う方法など様々な予防法、対策が取られてきました。しかしながらどの方法もその原因を明らかにし、発生率をゼロにするには至っていません。ですので、手術が無事に終わっても術後C5麻痺に関しては祈るしかないのが、現状であり、術後患者さんの手が当たり前に挙がると本当に心からホッとします(脊椎を手術される先生ならきっと皆さんそうだと思います)。
最後に、術後C5麻痺は20年以上も前から学会等で研究、報告、議論されているのですが、未だに真の原因はつかめていません。犯人(原因)は、先ほどの3つの説の誰かなのか、単独犯なのか、複数犯なのか、はたまた予想だにしなかった真犯人がいるのか。私たちもただ指をくわえてみているわけには いきませんので、少しずつ真相に近づいていければ と思います。

腰椎椎間板ヘルニア 診療ガイドライン

大学院 平田 寛人

前回の脊椎だよりでは腰部脊柱管狭窄症について紹介しました。今回は腰椎椎間板ヘルニアについて診療ガイドラインに沿ってご紹介させていただきます。
【腰椎椎間板ヘルニアとは??】 「ヘルニア」と言われてみなさんはどんな病気が 思い浮かぶでしょうか。腰の病気を思い浮かべる方 もいれば、腸管の病気を思い浮かべる方(鼠径ヘルニア・大腿ヘルニア)もいるのではないでしょうか。 ヘルニア(Hernia)とは<本来あるべき場所から飛 び出している状態>を表しています。つまり腰椎椎 間板ヘルニアとは腰椎の椎間板が本来あるべき場所から飛び出している状態を示しています。多くの場合、椎間板の髄核といわれる部位が後方の繊維輪と いわれる組織を突破して飛び出します。椎間板の後ろには神経が通っており、結果として神経痛をきたす疾患です。

【疫学・自然経過】

男女比は約2~3:1と男性に多い疾患で好発年 齢は20~40代といわれています。・職業は影響するか?従来、運転を職業とされたり、金属・機械業労働に従事されたりする方はデスクワーク中心の職業よりリスクが高いと考えられていましたが、そうでないという報告もあり、今は明らかではないようです。・喫煙は影響するか?喫煙により椎間板が変形しやすくなることが報告されています。約20%ヘルニアを発症するリスクが上がるともいわれています。・スポーツは影響するか?スポーツは影響しないようです。・治療は手術のみか?自然消退(小さくなっていく)タイプのヘルニアの方も多くいます。どのくらいの期間で改善するのか? 腰椎椎間板ヘルニアの患者さんのなかには自然に小さくなるタイプのヘルニアの方も多くいます。発症した方の年齢や程度によって異なりますが約2~3か月で小さくなると考えられています。

【診断】

まずは問診が行われます。 典型的な症状として ・下腿まで放散する下肢痛(神経の走行に一致する)・休んでいても疼痛はあり、体動によって悪化・咳やくしゃみで増悪するがあります。このような症状があれば腰椎椎間板ヘルニアを疑い診察に移ります。診察では筋力や腱反射をみて、神経痛を誘発する診察を行います。そして腰椎のレントゲン撮像を経てMRIでの精密検査が計画されます。MRIで椎間板の突出が確認でき、症状と一致すれば腰椎椎間板ヘルニアと診断されます。

【治療】

麻痺がある方(足の力が入らない、尿・便にトラブルがあるような方)は、腰椎椎間板ヘルニアが原因でその症状が起きていると診断がつけば手術が適応となります。そのような方を除く多くの方は、先ず鎮痛剤による保存的治療を行います。一定期間保存療法を行いますが、耐え難い疼痛が続くときに手術が考慮されます。約2割から5割の方が手術を希望されるようです。

【予後】

手術をした方と保存療法をした方では、手術をうけた方のほうが早期の経過はよいようです。しかし 経年的にその差はうまっていき10年経つと保存療法 との差はなくなると報告されています。また、すぐ手術をうけた方としばらく保存療法をうけてから手 術をうけた方にも差はないと言われており、まずは 保存療法を行うのが通例となっています。 治療後の再発率は4~15%と言われています。

【佐賀大学整形外科では・・・】

顕微鏡下摘出術や内視鏡下摘出術など各種患者様 にあった治療を用意できるように準備しておりま す。また最近ではヘルニアを溶かすコンドリアーゼ という成分の薬が開発されており、従来のようにメスで体を傷つけることなく、針を直接椎間板に注射して治す注射薬があります。当院でも認可を受けた 医師が数名おり使用できるようにしておりますので 脊椎外来でお気軽にお問い合わせください。


近況報告

助教 前田 和政

皆さま、こんにちは。前回の脊椎だよりからもう1年経ってしまったのかということに驚いています。時の経つのはあっという間です。患者さんも増えて、手術件数も増加しており、私は相変わらず外来・手術と慌ただしい日々を過ごしています。しかし、吉原先生が昨年度途中から大学院を卒業し臨床に戻って頂きましたので、おかげで少し時間が取れるようになりました(吉原先生が昨年の私のように疲弊していっているのが心配ではありますが…)。研究では、以前と変わらずDISH(びまん性特発性骨増殖症)について調査しています。まだわからないことだらけですが、何とか形になればと頑張っています。応援しているサガン鳥栖が昨年何とか残留でき、今年こそと期待していましたがなかなか勝てず監督交代となり、その後盛り返しているので再度期待して応援しています。TBS系炎の体育会TVにフェルナンド・トーレス選手が出演した際に、スタンドに観客としていたのでちらっとTVに映りました
(笑)。また、ご縁があり当科に選手のサイン入りユニフォームを頂いたので、6階病棟に展示していますので機会があればご覧下さい。昨年と変わらず、当科の脊椎外来も月・水・金に行っていますので、何かあれば御相談下さい。皆様の御健康と御多幸をお祈り致します。

近況報告

福岡記念病院 隈元 真志

脊椎便りをご覧の皆さま、はじめまして。福岡市早良区の医療法人大成会福岡記念病院で脊髄脊椎外科を担当させていただいております、隈元真志と申します。当院で初めての脊椎診療専従医として、3年が経ちました。週に6コマの外来診療と週1日の手術日からの診療内容でスタートし、地域の患者様や医療機関に信頼を得られるよう日々頑張っております。当院の一番の特徴は、地域の救急診療を担っていることにあります。「断らない医療」をモットーにしているので救急車搬送台数は福岡県内でも有数です。そのため、高齢者の脆弱性骨折の多さは私のこれまでの脊椎修練施設でのキャリアの群を抜いております。救急車で搬送される患者様は既にもともとのADL(日常生活動作)が低下していて、まるで動けない状態になっている患者様がほとんどです。どのような治療を組み合わせることで、これらの患者さんを早期にもとの生活に戻れるようにできるか、常に考えさせられる日々です。このような環境下にあるので、今わたくしが抱いているクリニカルクエスチョンは椎体骨折の連鎖をスクリーニングできないか、BKP(経皮的椎体形成術)での再骨折を画像所見で予測できないか、不安定性脆弱性仙骨骨折は保存加療より手術加療のほうが予後がよいのではないか、などと骨粗鬆症性脆弱性骨折に関連することばかりです。実は、わたくしの医師のキャリアは平成13年度に元佐賀大学脳神経外科教授・田渕和雄先生の教室の下で、脳神経外科医としてスタート致しました。そのときに、田渕教授も「Thinkglobally,actlocally!」
(地球規模で考え、足元から行動せよ)と教室員を鼓舞しておられました。現在の福岡記念病院の理事長でいらっしゃいます黒田康夫先生は、前任は佐賀大学神経内科教授でいらっしゃり、同様に「Thinkglobally,actlocally!」の言葉を用いて、当院での学術活動を応援してくださっております。この言葉はわたしの原動力であります。脊椎診療は確かな症候・診断学の上に成り立つ外科治療で、機能の改善により生活の質を維持・改善できる分野です。しかし、まだまだ解明されていない点も多く、引き続き臨床研究・基礎研究が重要な学問です。佐賀大学の素晴らしい、そして懐かしい先生方と共に活動できることを大変誇りに思っております。本家秀文部長をはじめ、樋口健吾先生、宮下翔平先生にいつも助けていただき、この場をお借りして、甚だ感謝申し上げます。拙筆にて大変恐縮でございますが、近況報告とさ せていただきます。脊椎便りをお読みになっている 皆さまが健康に過ごされますよう祈念申し上げます。 今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

近況報告

佐賀記念病院 整形外科 塚本 正紹

脊椎便りをご覧の皆さま、こんにちは。一昨年より佐賀記念病院に勤務し、本年度で3年目になります。当院では、本年度も変わらず、會田副院長と私の2人で脊椎疾患の診療にあたらせていただいております。特別に新しい治療や取り組みはないのですが、当たり前の手術を当たり前に完遂する、一人一人の患者さんの診療に真摯に取り組むことを日々心掛けています。さて私が勤務する敬愛会佐賀記念病院には、「敬釣会」という釣りサークルがあります。病院が保有する“ペンギン丸III”という船で、主に玄界灘で活動を行っています。私も数回参加しましたが、先日参加した際にビギナーズラックで大きな真鯛
(82.5cm、5.5kg)をゲットすることができました(写真)。80cm以上のサイズはなかなか釣れないらしく、釣りベテランのスタッフの勧めで魚拓まで作り、最後は家族皆で美味しくいただきました。ところで皆さんは「タイのタイ」をご存知でしょうか。魚の肩甲骨と烏口骨を魚に見立てたもので、お金がたまるなど縁起物とされています。綺麗に魚を食べながら見つけることができると少し幸せな気分になれます。骨についつい目が行ってしまうのはおそらく職業病でしょうね。そうなると魚の背骨も気になるところです。マグロなどは紡錘形の体で速く泳ぐので背骨も大きく頑丈、背骨同士もしっかりとつながっているようです。一方マダイは側扁形(紡錘形を縦に長く左右の幅を薄くした形)の体をしているので上下の棘が長くなっていますが、マグロほど速く泳がないので背骨同士のつながりはそう強くないようです。この形は急な方向転換や泳ぐ速度を変えるのに適した体形で、背骨もそのための柔軟性を保っているのでしょう。普段何気なく見ている魚でもその骨格の一つ一つには生活の仕方、特に泳ぎ方に合わせてうまくできていることがわかります。ボーっと生きていると𠮟られてしまう時代ですから、患者様の一挙手一投足もしっかり観察して大切なサインを見逃さないようにしなければと思います。最後になりましたが、脊椎便りをお読みになっている皆さまが本年も健康に過ごされますように心からお祈り申し上げます。

近況報告

助教 吉原 智仁

平成27年4月から佐賀大学の基礎分野の大学院 (生化学教室)へ進学し、早くも4年が経過しました。 残念ながら4年間で博士論文を完成させることがで きませんでしたが、6月にほぼ完成させることができ、論文『ぺリオスチンの線維芽細胞における細胞周期における重要性』の投稿ができる状況までにな
りました。学位については本年度取得する予定です。やっと精神的苦痛から解放されます。臨床分野では今年1月から佐賀大学附属病院整形外科へ復帰し、脊椎外科医の一員として日々奮闘しております。以前担当をさせていただいていた患者さんたちにも外来でお会いすることもあり、大学院に進学する4年前の頃を思い出します。これから脊椎脊髄病医として更なる知識と技術の向上に努めていき、患者さんの治療に貢献できればと考えています。プライベートではまだカブトムシとクワガタのブリードは継続できています。臨床に復帰し、ブリードに費やすことができる時間はほぼなくなりましたが、細々と続けています。今年も5月に入り続々と成虫の羽化が始まっています。今年も夏頃にある栄の国まつり(佐賀市内)やハンギー祭り(千代田)では子供向けのカブクワ店を出店する予定ですので、もし祭りでみかけましたら声をかけてください。汗ばむ季節になってきましたので、体調を崩さぬようお気をつけ下さい。 皆様のご健康の程、心よりお祈り申し上げます

近況報告

九州大学 大学院 戸田 雄

脊椎だよりを御覧の皆さま、こんにちは。医師7年前になります戸田雄と申します。今号から脊椎だよりに掲載させていただくことになりました。宜しくお願いいたします。私は2013年に大学病院におりましたので脊椎だよりを読まれている患者さんの中には私が病棟主治医を担当させていただいた方もおられるかと思います。あれから6年経過しましたが、いかがお過ごしでしょうか。私は大学院に進学しまして、病理学を学んでおります。腫瘍はもちろんヘルニア等非腫瘍性病変も顕微鏡で観察しております。肉眼よりとても細かい世界でありますので、肉眼で見えなかったことが見えてきます。日々新しい発見がありとても充実しております。臨床研究では転移性脊椎腫瘍の研究をしております。がんを患う患者さんが増えている一方でいろんながん腫では治療法が質・量ともに向上しており、転移性骨腫瘍を有したまま生存できる患者さんが増えてきています。そのため、転移性脊椎腫瘍に関しては我々脊椎外科の役割も大きくなってきております。我々佐賀大学脊椎外科グループの研究成果を皆さまに還元できるよう日々精進していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

ご挨拶ならびに近況報告

長崎労災病院 整形外科 中山 大資

脊椎だよりをご覧の皆様、初めまして。本年4月より長崎労災病院で診療をさせていただいております中山大資(なかやまだいすけ)と申します。脊椎だよりには初めて投稿させて頂きますので簡単に自己紹介をさせて頂きます。私は平成27年に佐賀大学整形外科に入局後、大学病院、柳川病院、福岡記念病院、熊本機能病院に1年ずつ勤務して診療にあたらせていただきました。まだ整形外科非専門医の身ではありますが、かねてより興味がありました脊椎分野での研修希望を医局長森本忠嗣先生にご相談させていただき、本年度長崎労災病院へ赴任することとなりました。目下日々修練中の身です。これまで、贅沢な環境にいましたので脊椎外科に関しては診察や手術の助手についたことしかありませんでした。今は自分で診察→診断→治療(保存療法か手術療法か、また手術内容についても)のステップに関して現在上司や同僚に相談しながら奔走中の毎日です。さらに、外来・当直には外傷の患者さんも来院されますので、整形外科の担当する領域は非常に多いなあと改めて痛感する毎日です。私と脊椎外科との出会いは、以前麻酔科として勤務していた際にとある病院で麻酔中に、脊椎の手術はすごい長いけど、先生達とても楽しそうに手術しているなあ、そして麻酔科の術後診察に行った際には術前と見違えるくらい痛みがとれて凄いなあ、と驚かされたのを今でも覚えています。だいたい術後は痛いと麻酔科のせいのように患者さんから言われていたので、本当に驚愕でした。それから、整形外科に籍を移して大学病院で勤務していた頃に森本先生、塚本先生に指導していただき、脊椎分野の診察・診断学に惹かれたのが興味を持ったきっかけです。福岡記念病院では隈元真志先生、熊本機能病院では岡田二郎先生に指導して頂きました。正直どの先生も難しい手術を簡単そうにやってしまわれるので、自分にも出来るのではないかと甘く考えていましたが本当に脊椎は深い分野のひとつだと思います。自分はまだまだ知識も経験も足りませんが、辛い症状でお困りの患者さんのために長崎労災病院で少しでも多くのことを学び、これからの自分の財産に出来るように研鑽して参りたいと思っています。それしかないと考えています。また、赴任して今2ケ月が経過しましたが、中には腫瘍性疾患や脊髄損傷の患者さんの診療にあたらせていただくこともあり、自分は整形外科医師だけでなく患者さんの心のケアにあたる立場としてももっと成長しなければいけないと思うことも多い今日この頃です。つたない文章で申し訳ありませんでしたが、最後まで目を通していただき本当にありがとうございました。どうぞよろしくお願い申し上げます。それではこの辺で失礼します。


忘れられない患者さん6

「元気な人がより元気になって退院される」、整形外科医の醍醐味であり、「がんを扱いたくないから整形外科医になった」と、がんを敬遠しがちな整形外科医は珍しくありません。恥ずかしながら私もそうでした。2011年から佐賀大学に勤務するようになり、がん脊椎転移に携わる機会が増えてきたある日、前述の自分の診療の心構えを猛省した経験を綴ります。Aさん、40歳代女性、乳がん治療中に、脊椎・骨盤に多発骨転移が見つかり、担当診療科より放射線治療が実施されていました。脊椎転移病変は徐々に増大し脊髄を圧迫するようになり、下肢筋力が低下してきたために私の外来へ紹介受診されました。脊椎破壊は軽度でしたので金具での固定は不要、腫瘍切除のみで対処予定としました。手術前に背部の切開予定の皮膚を確認すると、3か月前に放射線治療をしていたためか軽度発赤していました。放射線治療後の皮膚は治癒しにくく感染をおこしやすいのです。

しかし、Aさんの麻痺は進行性でしたので手術は必要です。「小さな子どもがいるので、下肢筋力低下は困るので手術してほしい」という本人からの訴えもあり、「軽度発赤くらいなら創治癒遅延や感染のリスクも少ない。それに、麻痺が進行するほうが困るはず。」と考えました。腫瘍切除を行い、手術は無事終了。放射線治療後のためか皮膚切開を加えても出血しませんでした。出血しないということは皮膚が治りにくいということ、感染しやすいことが予想されます。一抹の不安を感じながら、術後2週で抜糸をしましたが、皮膚は全く癒合せずに離開してしまい、そのうちに皮膚表層が感染し、洗浄・再縫合を実施。しかしながら、また縫合不全となり、皮膚表層感染、洗浄・再縫合となり、入院期間は長くなっていきました。そのような中でもAさんは私を始め医療スタッフを指弾することもなく、ただ「早く家に帰って子供に会いたいな」とおっしゃられていました。申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

他大学のエキスパートの先生に相談すると、ビタミンD内服と血流改善薬投与をすすめられ、言われるままに実施すると、偶然かもしれませんが創は治癒しました。「先達はあらまほしきことなり」(吉田兼好)を実感する反面、『己でなければ患者さんはこんな苦労をしなかったのでは・・・』と自身の不勉強、経験の少なさ、見通しの甘さを反省しました。ある程度、創治癒が得られたところで、Aさんは家族との面会のしやすさからご自宅の近くの病院への転院を希望されましたので、転院していただきました。数カ月後、病状が悪化し他界されたと担当医より連絡を頂き、ご自宅でのお通夜に参列しました。私の実家のまちと似ていて星が綺麗な田舎であったこと、ご自宅での葬儀でしたので道に迷い到着がおくれたことなどを今でも覚えています。ご家族は私に対して叱責することもなく、「よく来てくださいました」とお礼を言われ、すすめられるまま焼香をあげました。

その時、ふとお子さんの姿が目に入りました。当時の私の娘と近い年頃で、Aさんが亡くなられたことも理解できていない様子でした。黙って御家族に一礼し、玄関から外にでて、急いで車に乗った瞬間に、こみ上げてくるものを堪えきれず、声を出して泣きました。Aさんとご家族の大事な家族の時間を奪ってしまった罪悪感、そして、「がんを扱いたくないから整形外科医になった」と嘯いていた己、まさに慚愧の念に堪えない。帰りの車中で、今後、がん脊椎転移の患者の診療・研究・教育に尽力することを誓いました。その後、佐賀大学病院でがん脊椎転移対策を行ったきっかけはAさんへの贖罪です(第8号脊椎だより参照)。医の心をあらためて教えてくださったAさんの存在は、私の不断の努力のモチベーションの源であり、忘れられない患者さんです。