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発行日 平成16年5月24日 教授 佛淵孝夫

第15号をお届けします。
 「股関節だより」も15号を数えることになりました。そろそろ一冊の本にしてはどうかとのご意見をいただいております。これまでのものを整理したり、付け加えたりしてみようかと思っています。実現するか定かではありませんが、出版の暁にはご購入していただければ幸いです。

  今回は自己血輸血、股関節の病気と腰痛、膝痛の関係について、特集を組んでみました。これらについては以下に簡単に紹介します。また谷やんさんのシリーズも最終回となりました。少し残念でもあり、また少し安心しました。あまり張り切り過ぎないようにお願いしたいと思います。質問コーナーは臼蓋回転骨切り術(正確には寛骨臼移動術)の抜釘について、抜釘担当(?)の重松先生に答えてもらいました。

・自己血輸血について
  自己血輸血については大学院生の肥後先生が担当です。人工股関節置換術や股関節の骨切り術では出血量が多いため、ほとんどの施設で自己血輸血が行われています。肝炎や他の合併症を防ぐためにできるだけ自分の血液でまかなうことが推奨されてきましたが、最近欧米では術後の肺塞栓症(いわゆるエコノミー症候群)が大きな問題となり、自己血輸血の見直しが行われています。つまり、たとえ自己血を貯血していても少々の出血では自分の血液であっても輸血してはいけないという仕組みです。すこし貧血気味の方が血液がサラサラして血栓ができにくいと考えられています。具体的には術中・術後の出血で血液中の血色素(ヘモグロビン)の値が原則として8g/dl(正常は女性で12、男性で14/dl以上)以下にならないと自分の血液であっても輸血してはいけないことになっています。ましては他人の血液(献血による日赤血液センタの血液)であれば原則として7/dl以下とされています。もちろん高齢者や患者さんの状態によってはこれ以上でも輸血することがあります。
  いずれにしても本当に輸血が必要かをこれまでの多くのデータから十分に検討した結果、半数以上の方が自己血を準備しなくてもよいことが判明しました。もちろん骨切り術もこれまで通り、原則として自己血輸血の対象にはなっていません。
(注! この方針はあくまでも出血量の少ない佐賀大学独自のもので、全国的には自己血貯血が当分は必要とされています。)

・股関節の病気と腰痛の関係
  そもそも腰痛の経験がない方はおられないのではないかと思います。股関節の病気を持っておられる方の約3分の2は腰痛にも悩んでおられるようです。股関節と腰痛の関係について脊椎(頚や腰の病気)が専門の會田先生に担当してもらいました。若い人では股関節の病気のために姿勢が悪くなり、その結果腰痛となります。したがって股関節の問題が解決すると腰痛も改善するようです。同じ理屈で、股関節が完全に固まってしまった方、股関節脱臼のために足の長さが極端に異なる方でも股関節の手術により腰痛の改善が見込めます。その一方で、高齢の方で既に腰(脊椎)の椎間板や骨に変形のある方では股関節の手術をしても、腰痛の改善はあまり期待できないようです。

・股関節の病気膝痛の関係
  股関節が悪い方は膝にも影響があります。特に、腰と同様、足の長さが極端に異なる場合や、股関節の動きが悪い方では膝にも問題が生じます。これについては長嶺先生に解説してもらいました。足の長さや股関節の動き、姿勢などによりO脚になったり、X脚になったりします。膝の変形が進行した場合には膝の手術が必要になります。したがって、私たちは股関節のだけでなく、膝や腰の問題も考慮しながら、治療方針をたてています。そのため、足の長さが極端に異なる股関節脱臼や、全く動かない股関節(強直股関節)に対しても積極的に手術をお勧めしています。