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股関節の病気と腰痛との関係は?

佐賀大学 整形外科 會田勝広

 股関節の病気で悩んでおられる方々におきまして、股関節以外の場所の病気をあわせてもっていたり、病気ではなくとも他の場所に痛みを感じることが多く見うけられます。今回は、特に腰痛との関係についてお話させていただきます。

 股関節の病気に対する、主に人工股関節手術の目的で入院された患者さんはご存知と思いますが、当院への入院後の診察やアンケート調査によりまして、股関節以外の部位の痛み・症状についてたくさんの検討をさせていただいております。当院で人工股関節を受けられた118人の女性の検討によりますと、腰痛を自覚していらっしゃるのは、全体の約6割の方々でした(図1)。

 腰痛をもつ方の、ある人工に対する割合は、いろいろな要素、例えば性別・年齢・職業・基礎疾患などにより変わってきますが、4割を超えていることは少ないのです。よって、この6割という数字は、股関節の病気をもつ方は、もっていない方よりずっと腰痛が多いといえる数字です。この調査を年齢別に分けてみました(図1)。40~64歳、65~74歳、74歳以上のそれぞれに分けても、不思議と腰痛がある方の割合はおおむね約6割のようです。

 この腰痛はいったいどうして起きているのでしょうか?その答えは、残念ながらはっきりとわからないのです。腰痛というのも厄介なもので、世界中で研究されているにもかかわらず、その原因をひとつに決めることは不可能のようなのです。なぜなら、腰痛を起こすと考えられる原因があまりにも多く(例えば腰の骨・骨を支える靭帯や関節・骨の中の神経・背中の筋肉・回りの内臓などなど)、ただ一つの原因とは証明しかねるからです。
しかし、おおよその見当はついてきております。特に、股関節の病気の方がもつ腰痛には、背骨から骨盤への骨の並び方が強い影響をもっているようです。腰の骨( 5個つながっています)は骨盤骨を介して股関節とつながっている構造になっております。股関節の病気の方々の多くは、股関節の変形のために関節が固まる(拘縮といいます)ことにより、腰の骨と骨盤がそれをかばおうとした結果、背骨から骨盤の並び方が強い前ぞりになるようで、これが腰痛の原因になっている可能性があります(図2)。


 これは体にとっては、いつも腰を後ろにそりかえしている状態に近いのです。想像してみますと、この姿勢ではすぐに腰痛が出そうですよね。この強い前ぞりは、仰向けで寝るとなお強くそるので、仰向けでは腰が痛くなってくるので横向きで寝ていました、という方もいらっしゃいます。
それでは、この腰痛は、股関節の病気の治療をした後はどうなるのでしょうか?これを調べてみますと、腰痛があった方の人工股関節手術後において、約5割・半数の方では腰痛が改善しておりました(図3)。股関節の痛みがとれて動き方(拘縮)もよくなり、足の長さが修正されたことで、腰の骨の前ぞりを含めた、体の全体のバランスがよくなった結果、腰痛がよくなったのではないかと考えています。

 ただし、これには年齢による差があるようで、より若い方では腰痛がよくなりやすく、より高齢の方では腰痛が残りやすい傾向が見られました(図3)。このことから、より高齢の方の腰痛では、腰の骨の並び方が前ぞりになることだけが原因ではないのだろうと考えています。腰の骨の強い変形・背中の筋肉の疲れ・骨そしょう症などが原因として疑わしいのではないかと、検討中です。

  このように、股関節の病気は腰痛、そして膝関節の痛みとは深くかかわっているようです。外来受診や入院治療のおりには、遠慮なくいつも感じている痛みについてご相談下さい。腰痛もあわせて治療すべきか、股関節の治療のみで大丈夫そうか、いろいろな場合があると思いますので、参考にしていただければ幸いです。