« 股関節の病気と腰痛との関係は? | メイン | 発行日 平成16年5月24日 教授 佛淵孝夫 »

自己血輸血について

臨床大学院 肥後たかみ
 第12号で、外来でレントゲン写真より手術時の出血量を予測し、患者さんによって自分の血を貯める(自己血貯血)かどうかを決定することをお話しましたが、今回はその後の結果をお話したいと思います。
 まずこれまでの経過です。
1.対象となる患者さん
原則として70歳以下、貧血がない(ヘモグロビン10以上)方が対象になります。
佐賀大学整形外科では人工股関節置換手術の患者さんを対象に、手術の約3週前に外来で400ml自己血貯血し、手術後に自分の血を輸血(自己血輸血)してきました。その後、状態に応じて、70歳以上の方にも行うようになりました。

2.出血量を減らす工夫
 :フィブリン、オキシドールの使用貯血した自己血から血を止める作用のあるフィブリンという成分を取り出し、手術時にフィブリン糊として人工関節を入れる部分に塗るということを行いました。すると、フィブリンを使用しない場合と比較し、出血量を約200g(牛乳瓶約本分)少なく抑えることができました。その後、家庭でも消毒に使うオキシドールをふりかけることにより、出血量を減らせそうなことがわかりました。

3.出血量の予測
  これまでの手術データから、レントゲン写真をもとに、出血量が多いタイプがわかりました。
出血量が多いタイプには、
(1)変形性股関節症で、骨頭の部分に骨がたくさんできるタイプ
(2)大腿骨がスカスカで、もろいタイプ
(3)再置換術(人工関節にゆるみがでて、入れ替える手術)
(4)人工股関節置換手術に加え、脱臼の程度や骨の形により、骨を切って、矯正を必要とする手術

などがあります。
以上のようなデータをもとに、平成年月より手術予約をされた患者さんでは、原則として出血量が多いことを予測できる患者さんのみを対象に、自己血貯血を行っています。
  このような貯血を開始してから、自己血貯血なしで他人の血(同種血)を必要とされた方は2名いらっしゃいますが、高齢であったこと、手術前より貧血があったという理由により貯血できなかった方です。つまり、貯血可能な方(今までなら貯血していた方)で、自己血貯血なしでよいと判断した症例では、同種血輸血を必要とした例は1例もなく、特に問題はありませんでした。
  現在のところ、自己血貯血の割合は、貯血なしが54%、貯血ありが46%です。以前は、自己血貯血は約70%の方に行っていましたので、大分貯血を減らすことができ、経済的な問題も解決できそうです。
また、自己血貯血の対象となる患者さんでは、今までは手術の約3週前に貯血していましたが、現在は手術日の変更がほとんどないことから、貧血の回復を考えて、できるだけ4~5約週前に貯血するようにしています。(自己血の保存期間は、6週間と決められています。)
  このように、これまで行われた約1400例の手術データをもとに、出血量の予測、出血量を減らす工夫、自己血貯血も減らすことができそうです。まだ始まったばかりですので、また新しいデータがでましたら、ご報告したいと思います。ご質問等ございましたら、ご遠慮なくお尋ねください。