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発行日 平成15年6月16日 教授 佛淵孝夫

 股関節だより第12号をお送り申し上げます。
 最近ますます患者さんが増え、手術待ちの期間が7ないし8カ月になっています。したがって、現在の私の最大の関心事は体調管理です。そういえばここ数年、年末年始以外には風邪をひいていません。風邪かなと思っても1日か2日で治ってしまいますが、せっかくの休みがある正月は決まって風邪をひいてしまいます。
 今回も様々な企画を設けました。ご意見、ご要望などありましたら、遠慮なく事務局宛ご連絡いただければ幸いです。
骨切り術の早期退院、早期社会復帰について述べてみます。

1)もともと骨切り術は勧められなかった。

 これまでも述べてきましたが、股関節の病気になっても出来れば手術しないで、もし手術するとしても自分の骨でやる(骨切り術)に越したことはありません。一部の股関節の病気を除けば、症状が出てから少しずつ進行し、長い時間をかけて痛みや不自由さが進行します。20年間の股関節の病気(変形性股関節症)の進行をレントゲン写真
で示しました。この方は結局人工股関節になった方です。
 この方だけが例外ではなく、多くの皆様がこのような経過をたどっています。その理由はいろいろ考えられますが、主なものは以下の3つです。

入院3カ月、リハビリ3カ月の壁

  「病気のことは言われていたが、リハビリを続ければ治ると思っていた。」「人工関節になるまで出来るだけ我慢しなさいと言われてきた。」「骨切り術では痛みはとれないといわれた。」などと骨切り術を勧められなかった方が約3分の1おられます。
 中には「長年坐骨神経痛と思って腰の治療を続けてきた。」という方も少なくありません。少なくとも10代、20代から股関節の症状のある方、先天性股関節脱臼のあった方は専門医の診察をお勧めします。

2)手術に不安があった。

 「骨切り術を勧められたけれども、現在はそれほどひどくないし、本当によくなるのか不安だった。」「手術が安全なのか不安だった。」「傷が残るのがいやだった。」「手術自体が怖かった。」などがよく聞かれます。
 たしかに、骨切り術は予防的な手術でもありますから、「より安全で、より確実な手術」でなければなりません。上手な手術でなければ「今より悪くなる」可能性があり、「やらなければ良かった。」ということになってしまいます。

3)3カ月の入院、3カ月のリハビリの壁。

 きちんとした説明を受け、よく理解し、納得して手術を受けようと決心したが、長期間の治療が壁となり手術を断念した方も大勢いらっしゃいます。人工関節手術を受けることになった方々の大多数が、一度は骨切り術の話は聞いているはずですが、「時間がとれなかった。」ということで断念されているのです。
 多くの患者さんが女性です。症状が出てから、学校、就職、結婚、子育て、仕事、孫の守まで、女性は息つく暇もなく活動しています。この間に半年もの長い間、股関節の治療に専念できる方はまずいないと言っても過言ではありません。
 結局「治療する時間がなかった」方で「諦めていた」のが、その後痛みが強くなって「手術が怖くて、我慢していた」ということになり、やがては「痛みが怖さに打ち勝って」手術を受けることになります。
 あんなに怖がっていた方が、術後1週もすると新しく入院してきた不安げな患者さんに「奥さん、奥さん!どうもないですよ!何も心配しないでいいですよ!」と『大先輩』に変身してしまいます。
 理想を言えば、これらの患者さんも自分の骨で手術できればよかった方々です。

入院3週間、早期社会復帰の実現

 私どもの佐賀医大で骨切り術(骨盤側)を経験した方はご承知のとおり、術後3週で退院していただいています。現在は全国的には3カ月入院ですが、「自己血貯血もいらなければ学校を休むこともない」をキャッチフレーズに、早期退院、早期社会復帰の実現を目指して、様々な工夫をしてきました。
 10年ほど前までは、初期の変形性股関節症には、当初大腿骨側の骨切り術で対応していました。しかしながら、入院期間とリハビリが長すぎることから、手術の規模が大きく、出血量も多い従来の骨盤側の骨切り術をすこし改良しました。当時8週以上であった入院期間を慎重に少しずつ短縮し、安全性を確認した上、現在の3週間に至っています。
 残念ながら、この方法はまだ全国的にはほとんど広まっていません。むしろ、このやり方は非難、あるいは批判されることもあります。「患者さんがかわいそうだ」とか「無理やり退院させている」とか言われることもありますが、実際に佐賀医大に見学に来られた先生方のおかげで、少しずつ理解されるようになって来てはいます。
 骨切り術が普及するためには「安全で確実な手術」とともに「早期退院、早期社会復帰」が必須であると考えています。