
皆さまこんにちは。前回、人工股関節の手術を受けた方のQOL調査結果の一部をご報告させていただきましたが、その後もたくさんの方に返送していただき、ありがとうございました。皆さまのご協力で調査票は244通と7割以上回収できました。結果を再度集計していますので、いずれ改めてご報告させていただきます。
さて、今回は人工股関節術後の患者さんが外来に来られた時、術後の経過や現在の生活の様子、お困りのこと等について、私が直接お話をうかがいましたので、その事についてお話させていただきます。外来診察後の短い時間ではありましたが、混雑した診療時間の中ではお聞きすることができない貴重なお話を聞かせていただきました。
お話を聞いた方は初めて佐賀医大で人工股関節手術を受け、退院後1ヵ月、術後6ヵ月、1年、2年後の18名の方たちです。男性が5名、女性13名で年齢は46歳~77歳でした。皆さまから聞いた内容を、手術後の期間別にみていくと、退院後1ヵ月から術後2年までの方に共通する部分と違いがある部分がみえてきました。
1.退院後1ヵ月
病気による生活への障害は術後に改善し、「こんなによくなるとは夢みたい」と長い間の【痛みからの解放】や「びっこがよくなってうれしい」と【歩容改善の喜び】が述べられました。これは、「痛みに振り回されないので楽になった。先のことが不安だったのがうそみたい」と病気のために【制約される生活からの解放】でもありました。日常生活では【脱臼が怖い】ため、入浴や階段の昇り降りが難しく、いろんな動作に【試行錯誤で取り組み】を行っておられました。術後の日数がまだ短いため、自宅での生活に慣れず仕事など【社会復帰に対する不安】は多くの方がお持ちでしたが、術直後からのリハビリが進み、短期間の間に目に見えてよくなったことを実感されており、さらなる【回復への期待】が大きいようでした。中には、術前は歩きにくさや痛みがあっても身体障害者の認定を受けていなかったため、【障害者になった自分がショック】と戸惑っていたり、自分の足(骨)を失ったそう失感や人工関節への抵抗感がある方もおられました。
2.術後6ヵ月
術後6ヵ月では、退院後1ヵ月の方と同様に、「前は痛くて笑顔ができなかった」と【痛みからの解放】や【歩容改善の喜び】がありましたが、退院後1ヵ月頃は「悪い時に比べきれいに歩ける」程度だったのが、半年も経つと「ふつうの人と同じように歩ける。術後しばらくは足を引いてたけど、最近は全然わからなくなったと人に言われる」ほどに回復していました。日常生活については、靴下の脱ぎはきや足の爪きり等の一般に股関節症の人に難しい動作を除き、自分でできるようになっていました。そのため、手術前は股関節症で不自由だった家事や仕事などが行えるようになり、「明るくなった。動けることがうれしくて、何にでも出たがりになった」「仕事はやめようと思っていた。でも今はあと10年くらい働けるかなと思う」と言われるように、積極的に社会活動に参加されていました。手術後の生活の変化に満足されているようでした。その反面で、活動範囲が広がるにつれ人工関節による「(脱臼するから)深いお辞儀ができない」「痛みはなくなって期待通りだが、股関節がもっと動くと思っていた」と【股関節屈曲制限の不自由さ】を感じておられました。
3.術後1年、2年
術後1年と2年の方はほとんど内容が同じで、【痛みからの解放】や【歩容改善の喜び】は退院後1ヵ月、術後6ヵ月の方と同様に話されましたが、劇的な変化をとげた頃とは違って、痛みのない生活に慣れたようでした。同時に、日々の生活で「(人工骨のことを)人に言うと驚かれて気になるけど、普段は全然気にならない」「つい忘れてしゃがんだりする」と【人工関節を意識しない】ことが増え、自然に可動範囲の中で、外出や生活動作ができるようになっていました。手術前と比べると「今は痛みが全然ない。思いきって手術してよかった」「きれいに歩けるのがうれしい。前はおしりがゆれてしか歩けなかったので恥ずかしかった」と喜ぶ一方で、「もうちょっと動けるようになって何でもできるといいけど」とさらなる回復を願って、人工関節と折り合いをつけて生活されていました。
以上のようにまとめさせていただきましたが、どの時期の方にも共通していたのは、長年の痛みや歩行障害が改善して、心理的な負担感が減っていたことでした。これらの結果は、同じ病気で手術を受けた皆さまの実生活に基づいたご意見として、大変参考になりました。中には、「本当によくしてもらった。こんなにいい手術をしてもらった先生に不満など言いたくない」という方もおられましたが、人工関節の不自由さや課題を解決していくための貴重な情報として受けとめています。個人名を出したり、皆さまの不利益になるようなことはございませんので、今後も率直なご意見をお聞かせいただきたいと思います。ご協力ありがとうございました。
